原発被災の飯舘村 村民に寄り添い、再生に取り組んだ元物理研究者たちの10年 #あれから私は
飯舘村の総面積の75%は山林で占められている。そのため、国は除染困難と見ていたが、ふくしま再生の会は一部の地域で、放射性物質が付着した落ち葉が分解されて土になってしまう前に落ち葉を除去することにした。除去作業で空間線量は大きく変化しなかったものの、土壌の放射線量は3~5割ほど下げることができた。 田んぼや畑の除染については、協働作業に合流した東京大学大学院農学生命科学研究科の研究者と実施。冬場に田畑の表面の凍った土をはぎ取ることで、土壌の放射性物質の量が10分の1に減ることが確かめられた。その後、田んぼに水を張り、表面5cmの土を洗い流してしまう方法が提案される。これについては「田車」という農機具を使うと効率的というアイデアが菅野さんから出され、すぐに実行された。
「ふくしま再生の会のいいところは、ボランティア、専門家と農家が知恵を出し合い、アイデアが浮かんだらすぐに試してみることです。農家でもできる除染方法を考え、それが正しいかどうか実験していく。そんな試行錯誤の繰り返しでした」
試験栽培の開始と「うまい」米
2012年からは複数の区画で、稲の試験栽培を始めた。同時に、田んぼの放射性物質の分布も調べ、さらに育った稲に吸収された放射性物質を、根、茎、実などの部位ごとに細かく測定した。実の部分は、籾殻、玄米、精米した白米、ぬかなど、さらに細かく調べる。 この年、佐須地区で栽培された玄米に含まれていた放射性セシウムの数値は10~35Bq(ベクレル)/kgと、厚生労働省の安全基準100Bq/kgよりも大幅に低かった。しかも、白米に精米すると放射性セシウムの量は10Bq/kg以下に。放射性物質は米ぬかに溜まりやすいことも分かってきた。
2013年になると、田んぼの土壌における放射性物質の数値も低下。同年に収穫された玄米も4~26Bq/kgと低くなった。そして、2014年11月、佐須地区で試験的に収穫した米が全量全袋検査で放射性セシウムの検出限界を下回った。その後はみんなで自家消費したと田尾さんはうれしそうに振り返る。 「米を食べましたが、純粋にうまいと思いました。もちろんベテラン農家の宗夫さんの技術でおいしいお米ができているわけですが、自分たちでつくる米はこんなにうまいのかと喜びました」 飯舘村でつくられた米は2017年から消費者に販売されるようになり、毎年好評を博しているという。再生の会では現在、酒米の栽培にも取り組んでいる。