中国の電力不足はFRB利上げにつながる?
サプライチェーン乱れ高インフレが続く?
また、中国の生産活動の停滞はサプライチェーン(部品供給網)の乱れに拍車をかけ、世界のインフレ率を上昇させる可能性があります。金融市場目線では、米国のインフレ率上昇を通じて金融市場に相応のインパクトを与える可能性があるでしょう。当初「一時的」と思われたサプライチェーンの乱れに起因する米国の高インフレはなかなか収まる気配がなく、もはや「一時的」でなくなりつつあります。 そうした中、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は9月28日の上院議会証言で「経済活動の再開が続くことから、ボトルネックや採用難などの制約が再び予想を超える規模で予想よりも長引き、インフレを押し上げる可能性がある」との見解を示しました。また「サプライチェーンの乱れは改善するどころか場合によっては悪化している」「インフレが和らぐには供給側の障害が解消される必要がある」とも発言しました。 総論では、サプライチェーン問題の解消に伴って「インフレ率は当局の長期目標である2%に向け鈍化する」との見解を維持したとはいえ、全体的に高インフレの持続に対する警戒感をにじませており、「インフレは一時的」とするこれまでの見解を一部修正した形です。 パウエル議長が高インフレの持続性を警戒したことは金融引き締め、すなわち資産購入の早期終了や利上げ前倒しを想起させます。実際、議会証言の原稿には「インフレの高止まりが深刻な懸念材料になった場合、われわれはインフレが確実に目標と合致する水準になるよう対処し、そのための手段を活用するだろう」という記載がありました。「そのための手段」とは金融引き締め(≒利上げ)を指します。
高インフレで米国は利上げに動くのか?
しかしながら、高インフレがサプライチェーン問題に起因しているとの認識ならば、いくらインフレ率が上振れていたとしてもFED(連邦準備制度)が動くかは疑問です。住宅価格(金融緩和→住宅ローン金利低下→住宅販売好調→住宅価格上昇)の上昇に伴うインフレは金融引き締めによる対処が可能でその必要性もありますが、一方で最近の中古車価格上昇にも共通するように、世界的なサプライチェーン混乱に伴う物価上昇は米国の金融政策との関係が希薄だからです。 パウエル議長がサプライチェーン問題の長期化リスクを認めたことは「インフレ率が想定以上に長い間、上振れたとしても、その主因が供給制約なら引き締めはしない」という解釈も可能でしょう。資産購入が2022年半ばに終了し、その直後に利上げを開始するとの見方もありますが、その頃まで供給制約が残存していれば、利上げ議論は先送りになるのではないでしょうか。FEDはインフレ率そのものよりも中身を重視すると思われます。
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