苦手な全英に挑む錦織の本音とは?
ウィンブルドンの開幕を控え、芝は苦手だとか、ノバク・ジョコビッチと準々決勝で当たるドローだとか、錦織圭(25歳、日清食品)に関する話題が飛び交っているが、そんなこと以上に気がかりだったのが、左ふくらはぎのケガの状態だ。先週、ドイツのハーレで痛めて準決勝を途中棄権。トレーナーの所見は、筋膜炎ということだったが、ドイツで超音波検査を受けた結果、「大きな問題は見つからなかった」そうだ。 しかし、その一方で、金曜日に予定していたエキシビション・イベントを欠場した上、今週の練習を見た人たちを通じて、かなり軽めの練習しかできていないという噂や、「まだダメみたい……」という声をちらほら聞いた。そうなると、「大きな問題はない」という朗報すら非常に曖昧な表現に思えてきて、「問題なし」とは言っていないではないかと懐疑的な思いが膨らんでいたが、金曜日と土曜日の練習を見た限り、テーピングはしているものの極端に動きを抑えているという印象はなかった。ダッシュの最後を走りきらないことはあったが、単なるリスク回避だろう。 何より、表情が明るい。大きな不安を抱えている顔には見えなかった。正直な人だから、そういうところが一番の判断材料になる。土曜日の記者会見でもまず一言、「大丈夫です」。 ただし、ウィンブルドン出場が危うい時期もあったことは嘘ではない。 「もしかしたら出られないというのは多少ありました。でも、何日か経って治せそうだなというのを感じた。(いい感触を得たのは)ほんとにこの数日ですけど、毎日少しずつ良くなっているのを感じてます。全米のときよりもいいと思います」 足の親指付け根の嚢胞を除去する手術をした錦織は開幕の直前まで出場を迷っている状態だった、去年の全米オープンのことだ。しかし蓋を開けてみれば、日本中を熱狂させた決勝進出。その全米を比較対象に出してきたところを見ると、あの経験が今回錦織を出場へ向かわせた力にもなっているのだろう。 初戦に迎えるシモーヌ・ボレッリ(29歳、イタリア)は嫌な相手だ。サーブが強力で、ネットプレーも得意。芝に向いている。全米のようにここを乗り切れば…と思いたいところだが、サーフェスのことを考えなくてはならない。芝は重心を落として打つので足腰に負担がかかる。一打ごとに、それがじわじわと蓄積していくイメージだ。そのことを考えたとき、やはりケガの影響が気になるのだろうか、今大会の目標を聞かれた錦織は、「んーっと、特にはないですけど……えー……1回戦勝てたらと思います」と俯き加減に、しかし含み笑いを浮かべながら答えた。「特にはないですけど」の「ど」から「1回戦」を発するまで10秒かかった。