苦手な全英に挑む錦織の本音とは?
さてこれをどうとるか。やはり、今回はあまり期待していないということなのだろうか。いや、含み笑いに意味があったはずだ。「ここでは結果が出ていない」ということもしきりに言っていた。そのせいで未だに「新米の気分」なのだそうだ。最高成績は、昨年のベスト16。だからといって、第5シードが目標を「ベスト8」などと順当なところにおくのもおかしいだろう。ならば「優勝です」とでも言えばいいが、「新米の気分」である上に故障明けの状態なのにと、それは躊躇してしまう。このあたりに錦織のどうしようもなく正直なところが出て、あえてもっとも謙虚に「1回戦勝てたら」と答えたに違いない。そしてそれもまた嘘ではない。トッププレーヤーがよく言う「一戦一戦に集中したい」というあれと同意だ(と思う)。 仮に、言葉通りに「1回戦勝てれば万々歳」という気持ちだったとしても、そう悲観的にとることもない。夏のニューヨークで快進撃を果たした錦織は、「あまり自分に期待していなかったのが良かったのかも」と言っていた。しかし、あの準優勝で日本では錦織のグランドスラム制覇へ一気に期待が高まり、次に迎えた年初の全豪、そして海外メディアからも優勝候補と言われた全仏と、いずれもベスト8だった……。 これは、プレッシャーによるものなのだろうか。しかし、海外の記者からいつも聞かれる〈プレッシャー〉に関する質問に、錦織はまた同じ答えを繰り返した。 「日本からプレッシャーを感じることはありません。今も自分自身がトップ5からトップ3、トップ2と、上を目指しているので。特に試合では自分がやるべきことに集中していて、周りのことは気にしすぎないようにしています。時々はプレッシャーを感じることもあるけど、うまく対処できていると思います」
時々、言い慣れたことを答えているか、自分にそう言い聞かせているのではないかという気もしてしまうのだが、錦織がウェア契約をするユニクロのツアーマネージャーである坂本正秀さんは、「ほんとかよと思われるかもしれませんが、圭はほんとにあの通りに思ってるんですよ」と言いきる。最も近いところで接している人の一人がそう言うのだから、そうなのだろう。 つまり、グランドスラム優勝も、世界1位も、日本では今か今かと騒がれるが、それは自分自身が目指しているものと一致しているからプレッシャーにはならないということだ。だから、全豪や全仏でベスト8だったのは少なくとも外からのプレッシャーではなく、そういうものがあったとしたら自分の内側から出てくるものだと錦織は考えている。 今回の錦織に力みはなさそうだ。芝のプレー自体には年々いい感触をつかんでいることに加え、そこが今一番期待を寄せるべきところなのかもしれない。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)