なぜ栃木や群馬などの「官製富裕層ツアー」が失敗するのか? 嬉野の「ティーツーリズム」に外国の富裕層が殺到する理由
実際、有料にしてもクレームはないに等しく、むしろ多様な地元の生産者によるお茶を楽しめることで大いに評価が高まりました。 ■「無料」から「1人1万円以上」が当たり前に その中でも、2021年に和多屋別荘内に「副島園本店」を構えた生産者のひとりである副島仁さんは、昨年11月から「副島茶寮」で「茶考」という、80分ほどかけてじっくりお茶を楽しむプログラムを開始しています(オンラインによる完全事前予約制)。
その価格は1人5500円です。そこでは、副島園で栽培、加工した5種類のうれしの茶が主役となり、地元の吉田焼などの器に入れて提供されます。茶菓子なども出ますが、それはあくまで引き立て役です。 品種はもちろん、製茶の方法、焙煎、淹(い)れ方などについて、カウンターにいるコンシェルジュによる丁寧な説明を聞きながら、地元の茶農家が手間暇をかけて熟成加工を施し、独自に工夫して抽出したお茶を楽しむのです。80分はあっという間に過ぎてしまうほどです。
また冒頭の写真にあるように、嬉野市街からタクシーで10分ちょっと、2017年に同園の茶畑の中に作った「天茶台」も大人気です。50平方メートルほどの木製の平台を設置して野外茶室に見立て、その台の上で美しい茶畑を望みながら、お茶が振る舞われます。価格は1人当たり1万5000円が基準ですが、外国人富裕層の観光客の予約がひきもきらないのも納得です。 嬉野温泉には、天茶台だけでなく、永尾豊裕園の「杜の茶室」や池田農園の「茶塔」、さらに肥前吉田焼の里にある副千製陶所の一角をリノベーションして造った吉田茶室(唯一の屋内施設)もあります。このように、最高の茶空間での素晴らしい体験がいくつもの場所でできるように設計されているのが同地の「ティーツーリズム」の大きな魅力なのです。
無料が当たり前だったお茶を、茶農家や旅館業を営む有力経営者が、自分たち本来の価値を見定めて、正しくブランディングする取り組みを粘り強く重ねた結果、その価値に見合った形として顧客が喜んで1人1万円、1万5000円を当たり前のように支払うようになっているのです。これは本当に大きな変化です。 ■ラグジュアリーホテルのトップたちも驚くお茶の文化性 それでは外国人の富裕層はこのような観光企画をどこで知るのか。前出のとおり、一連の嬉野茶のプログラムは、東京都内のラグジュアリーホテルを起点にしています。