なぜ栃木や群馬などの「官製富裕層ツアー」が失敗するのか? 嬉野の「ティーツーリズム」に外国の富裕層が殺到する理由
嘉元氏は実家再生の最後のチャンスとして2013年、36歳のときに経営を引き継いで社長に就任します。危機的状況を打開するうえで、閉じこもった発想ではなく、嬉野の地域全体の資産を発掘し、前出の「3つの要素」(うれしの茶・嬉野温泉・吉田焼)を活用して、旅館全体を開放していったのです。 今では地元での観光事業はもちろん、例えば東京都内のラグジュアリーホテルでの「お茶サービス」の展開や、さらに世界的なパティシエ(洋菓子職人)であるピエール・エルメ氏との提携など、目を見張るほどの独自の展開を行っています。
また2020年から協業しているイノベーションパートナーズの本田晋一郎氏と共に、今までこの地域になかったインバウンド施策や、マーケティングに強いIT関連企業の誘致も行っています。 これによって、嬉野地域の基盤である上記の3つの要素の価値転換や高付加価値化を行いました。さらに進出してきた企業では地元の採用を強化することで、デジタル領域のノウハウを嬉野地域に直接伝え、育てるといった新たな「循環構築」も行っています。
■なぜコーヒーは「1000円以上」でお茶は「無料」なのか? 実は、その出発点は非常にシンプルなものです。「旅館に行ってお茶にお金を払う人はいない。しかし、ちょっとした高級ホテルでコーヒーを飲めば皆が普通に1500円、2000円を支払う。これはおかしいな、と思ったのです」(小原社長)。つまり、2000円のコーヒーがおかしいのではなく、おいしいお茶を無料で提供することがおかしいと思うことから、すべてが変わり始めました。
嘉元氏は社長に就任すると、まず無料で振る舞っていたお茶の提供の仕方を改めました。それだけでなく、レストラン単位でお茶農家との専属契約を結び、テナントとしてお茶農家の本店などを誘致しました。 旅館として生産者である茶農家から安く茶を買って、ただ同然で旅館の利用客に振る舞うのではなく、おいしいお茶を提供する茶農家にパートナーになってもらい、有料でお茶を楽しんでもらうサービスを開始したのです(宿泊客の部屋には追加料金なしで飲めるうれしの茶が置いてあります)。