なぜ栃木や群馬などの「官製富裕層ツアー」が失敗するのか? 嬉野の「ティーツーリズム」に外国の富裕層が殺到する理由
むしろ、日本の可能性は、世界的にも稀にみるような、地方が持っている「長い歴史」や「文化性」にあります。実際、それらを活かして成長する事例が全国で続々と登場してきています。しかも、それは「補助金ありき」などではなく、民間主導による取り組みが多くを占めています。 ■嬉野温泉の有志が実践する「ティーツーリズム」の真髄 その代表的な事例の1つが佐賀県西部で栽培される「嬉野(うれしの)茶」を核に据えた「ティーツーリズム」でしょう。この地域の独自の取り組みは2016年頃から始まりましたが、年を追うごとに進化を遂げ、世界的にも大きな話題になっています。
嬉野温泉は佐賀駅、佐賀空港、博多駅から約1時間。隣県の長崎空港からだと30分ほどの場所にあります。2022年9月に西九州新幹線の嬉野温泉駅ができたこともあり、周辺を歩いていると、国内の観光客に混じって海外からの富裕層観光客が足繁く訪れているのが本当によくわかります。 では、なぜうれしの茶が特に外国の富裕層から熱い注目を浴びているのでしょうか。その成功の理由をひとことで言えば、もともと地元にあった「500年の歴史を持つうれしの茶」「1300年続く嬉野温泉」「400年の伝統を持つ焼き物(肥前吉田焼)」という3つの要素を組み合わせたことにあります。
「うれしの茶」は芳醇な香りとうま味で定評がありますが、名産地・嬉野に行かないと味わえない「ティーツーリズム」の高付加価値企画化に成功していることです。 その背景には、同地にある老舗旅館「和多屋(わたや)別荘」の3代目である小原嘉元(こはらよしもと)社長を中心とした取り組みがあります。 同旅館は1950(昭和25)年の創業。敷地は東京ドームより広い、約2万坪(6万6000㎡)。客室数も100以上あります。
■嬉野の地域全体の資産を発掘、旅館を世界へ開く 伝統と格式がある名家が経営する和多屋別荘を初めて訪れると、誰もが少なくとも3泊以上したくなるような旅館ですが、実は2代目が平成バブル時に子会社のテーマパークに過大投資をしたことなどで大きな負債を抱え、何度も経営難に陥っていました。 親子間の確執もあり嘉元氏はいったん家業を離れますが、コンサル会社での経験を経て、自らも旅館再生専業を行う会社を起業。10年ほどで計80件超の再生を手がけることで手腕を発揮していきます。