「米ソ冷戦」の次は「対中包囲」の時代に 長期化した時に求められる日本の役割は?
6月11日から13日にかけて英国・コーンウォールで開かれた主要7か国首脳会議(G7サミット)。新型コロナウイルス感染症の世界的拡大以降、初めて対面で開催されたG7サミットでは、議長である英国のジョンソン首相が掲げた「より良い回復」という全体テーマの下、さまざまな議論が行われました。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、こうした議論の中でも、特に中国に対するアプローチに注目し、「欧米各国の関心が、これだけ『東洋=インド・太平洋』の問題に集中するのは初めてのことではないか」と指摘します。若山氏が独自の文化力学的視点から、現在の中国をめぐる状況を論じます。
「歴史の終わり」は「中国台頭の始まり」
国際政治の状況はギシギシと音を立てながら刻々と変化する。世界に支配的な力をもつ法的組織が存在しないかぎり、その時々に応じた有力国の連携と対立が状況の磁場をつくりだし、各国はその流動的な磁場の力学に沿って動かざるをえない。 もともとは経済的な問題を話し合う場であったG7(サミット)であるが、先に英国のコーンウォールで行われた会議では、中国の台頭に対抗する、いわゆるステイタス・クオ・パワー(現状維持勢力)としての政治的連携が強く顕示された。欧米各国の関心が、これだけ「東洋=インド・太平洋」の問題に集中するのは初めてのことではないか。この状況をつくり出した原因は中国であり、それに対抗する主力は米国であるが、その連携の重要な結節点の一つに日本があると思われる。戦後平和主義の立場は大きく揺らいでいる。 中国の軍事拡張に対して、同盟国である日米が協力して当たるのは当然としても、クアッド(日米豪印)が形成され、さらにNATO諸国が参加し、G7からD10(民主主義10カ国)となって、かつて「列強」と呼ばれた国々を中心に、いわゆる中国包囲網が完成しつつある。これに属さない国々、例えばロシア、イラン、トルコなども、この包囲網の出現によって、その立ち位置は微妙に揺れているようだ。 「新冷戦」という言葉もあるが、かつてのソビエト社会主義圏に代わる中国圏が形成されているわけではない。「一帯一路」政策も各地で摩擦を生じ、東ヨーロッパやアフリカや南米に親中派の国があるとはいえ、国際政治状況において中国は孤立の方向であるように思える。しかもその底流には単なる軍事対立を超えるグローバルな課題としての人権問題が横たわっている。 ベルリンの壁が崩壊したとき、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」と論じて話題になったが、実際には「中国台頭の始まり」であり、そして30年後には、それに対する包囲網が形成されたのだ。そしてこの状況は長引いて、冷戦時代に続くひとつの「時代」となるのではないかというのが、本論の主旨である。