「病気を公開しながら、音楽を作っていく」――サカナクション・山口一郎、うつ病との闘い #病とともに
しかしその後、体調は後退してしまう。 「また一気にガクンと落ちちゃって、そこから3カ月ぐらい、何もできない状態になってしまった。うつ病って揺り戻しがすごいんですよ。何をしたら自分がどうなるのか、失敗しては理解しての繰り返しがここ2年ぐらいの生活でした」 現在もマネージャー同行のもと、2週間に1回のペースで通院を続け、症状に合わせた数種類の薬を服用している。 「自分に合わない薬を飲むと余計に何もできなくなるし、反対に、必要以上にテンションが上がっちゃう時もあった。合う薬を探していた時期が一番しんどかったですね」
活動休止後、「これで終わっちゃうのかな」と怖かった
医師からうつ病と告げられた時、まず山口が返した言葉は「絶対に休めないんですよ」だった。 「先生は僕の職業をまだ知らなかったんですが、ツアーを目前に控えていたので、『先生、何言っちゃってんだろう?』という感じで。でも、『休んでください。診断書も出しますから。今休まないと大変なことになりますよ』と」 半信半疑だった気持ちは、正式な診断書を目にしてショックへと変わった。 「それまで僕はうつ病の人に『心が弱くて苦しんでいる人』というイメージを抱いていたので、自分がそんなふうに思われたら、もうミュージシャンとして終わってしまうんじゃないかとか、自分の音楽の聴かれ方が変わっちゃうんじゃないかといった不安が頭をよぎりました」 当初、山口はツアーを延期の方向でスタッフと調整するつもりだった。しかし、所属事務所の社長が待ったをかけた。 「僕は『1日リハーサルさえすればライブはできる。だから絶対にやる』と言ったんですけど、社長は『無理をしても同じことを繰り返す。命令だと思って休んでくれ』と」
22年7月、山口の活動休止が発表され、9月にツアーは全て中止となった。 「今思えばありがたかったですね。ミュージシャンの場合、事務所の受け入れ方によって、病気との闘い方はかなり変わると思います」 しかし、胸中は不安でいっぱいだった。 「バンドをやって17年、先のスケジュールがないということがなかった。何かに追われているのが当たり前だったから、『もうこれで終わっちゃうのかな』みたいな焦りがありました。めちゃくちゃ怖かったですね」 「僕らの仕事って、無意識に誰かと自分を比べている。新しいミュージシャンが出てきたとか、どんなものが売れているかとか。常にリサーチをして、自分の立ち位置がどこなのかを俯瞰で確認することが大事なブランディングになる。何もしなくなると追い越されていくような気がするし、音楽を聴かないと、なぜその音楽がウケているのかも分からなくなってくるんですよ」