「病気を公開しながら、音楽を作っていく」――サカナクション・山口一郎、うつ病との闘い #病とともに
両親の反応も山口を安心させた。 「僕は知らなかったんですが、父もパニック障害を経験したそうで、『しょうがないよ。休め休め』と言ってくれて、かなり楽になりました。母は実家の猫の動画や写真をただ送り続けてくれて(笑)。もし両親から余計に心配されていたら、もっと悩んでいたかもしれない。独身で誰の人生も背負っていないことも、ラッキーだったと思います」 体調のよい日が続くようになると、「人と関わらなければ」と思った。 「病気を隠しながらの露出は結構難しい。だから、まずは『心の病気』と発表しようと思い、自分のYouTubeチャンネルをひそかに作って、気付いてくれた一部の人たちとコミュニケーションを交わし始めました。優しいファンが多くて、みんなが自分を忘れていなかったことがうれしかった」
これがきっかけとなり、サカナクションに戻るためのリハビリとして、昨年10月からソロライブツアーを開催。今年1月に行われた千秋楽のライブの終盤、うつ病を公表してこみ上げる涙をこらえる山口の姿があった。アーティストが自身のうつ病を、しかもステージで打ち明けるケースはめずらしい。観客は固唾をのんで聴き入り、「おかえり」と声援を送った。 「あのツアーを回れたのは自信になりました。実はツアー初日、すごく体調が悪くて、ぎりぎりまで中止にするかどうかを考えていたんです。でも、ステージに上がった瞬間、不思議とスイッチがバチンと入った。『ああ、やっぱり自分はミュージシャンなんだな』と感じました」
新しい自分になって、この病気を乗りこなして生きていく
闘病を通して気付いたのは、自分と同じような悩みを持つ人たちが大勢いるという事実だった。 「YouTubeチャンネルを通して、『実は私も同じ症状が』という人や、『がんで明日手術です』『先天性の疾患があって』という声がたくさん寄せられた。『苦しい時、サカナクションの音楽で助けられた』と打ち明けてくれた人もいます」 うつ病のつらさは体験した人じゃないと分からないと山口は言う。 「『倦怠感』って言葉、よくないですよ。『なまける』なんてもんじゃないから。体験していない人が想像するより、200倍くらいつらいと思う。僕の場合は『ドラゴンボール』に出てくる『精神と時の部屋』じゃないけど、ひどい時は本当に重力が何倍にも感じる。躁の時間が長い人や、端から見たら元気で、サボってるように見える人もいる。人によって症状が違うので、まずはカウンセリングや治療を受けることが大事だと思います」 「いきなり数千や数万人の前でステージに立って、収入が何百倍になったりすれば、どこかおかしくなるミュージシャンも少なくない。それを食い止めるためのケアが日本は遅れている気がする。相談できる組織を音楽業界の中で作りたい。今後動いていきたいです」