マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
マダニに咬まれて人が死ぬ!?
近年、ダニに噛まれた人が病気になって死に至る、というニュースが話題になっています。その病気とは「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と言われるウィルス感染症で、吸血性のダニであるマダニが媒介します。この病気は、2009年に、中国中央部で原因不明の発熱症が集団発生したことから調査が進められ、2011年に病原体ウィルスが特定された、新興感染症です。 外来爬虫類、昆虫などに寄生して「ダニ」が密入国!? 危険な種類も SFTSウイルスに感染すると6日~2週間の潜伏期を経て、発熱、食欲低下、嘔気・嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状、頭痛、筋肉痛、意識障害・失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血・下血などの出血症状などを起こして、最悪死に至ります。現在までのところ有効なワクチンも治療薬もなく、発症した場合は対症療法しかないとされる怖い病気です。 当初、対岸の火事と思われたこの病気は、2013年1月に、厚生労働省より、日本初の感染事例が報告され、日本でもニュースとなって話題になりました。その後も発症例が報告され続け、これまでに393名の患者が確認され、うち64名が死亡しています(2018年11月28日時点、国立感染症研究所)。
マダニとはどんな生物か?
マダニとは、節足動物門クモ綱ダニ目マダニ亜目に属するダニのことで、世界で1500種以上、日本国内で40種以上が確認されています。マダニ亜目のダニには、皮膚の硬いマダニ科(Ixodidae)と皮膚の柔らかいヒメダニ科(Argasidae)が含まれていて、一般に「マダニ」と称される種類はマダニ科に属する「硬いマダニ」の種のことを指します。また、今回話題にするSFTSをはじめ、私たち人間に深刻な感染症をもたらすケースが多い種も「硬いマダニ」に属する種になります。ここでは、このマダニ科に属する「硬いマダニ」=マダニとして解説することにします。 マダニは、主に自然環境中の森林や草むらの中に生息しており、哺乳類や鳥類(種によっては爬虫類)の血液を吸って栄養源にします。卵→ 幼ダニ→ 若ダニ→ 成ダニ→ 産卵という生活環を持っていて、幼虫、若虫、および成虫の各ステージで宿主動物に寄生して吸血を行います。 ステージごとの生活様式を詳しくみてみると、まず、土の中に産み付けられた卵がふ化して幼ダニに発育します。この発生は春に限らず、夏から秋にかけても起こります。幼ダニの大きさはわずか1ミリメートル程度しかありません。これらの幼ダニはネズミなどの小型ほ乳類に寄生して3~4日間吸血します。そして飽血(満腹)状態になると地面に落下して休眠し、1週間程度で脱皮して若ダニに成長します。 体長2~3ミリメートルほどの若ダニはウサギなどの中型ほ乳類や鳥類に寄生して4~5日間吸血します。そして、再び飽血して地面に落下し、休眠に入ります。休眠覚醒後、最後の脱皮をして成ダニに成長し、シカやイノシシなどの大型哺乳類に寄生して最後の吸血を行います。未吸血の成ダニは大きさが3~4ミリメートル程度で、5~6日間吸血することで最大2センチメートルまで膨れ上がります。 飽血したメスの成ダニは地面に落下して産卵を開始します。1匹のメスで600~6000個もの卵を産みます。産卵後、メスはその生涯を閉じます。この卵から成虫に至るまでは2~3年かかるとされ、その長い生涯の間で、マダニはたった3回しか吸血しません。