ノーベル物理・化学2賞ともAI分野に 実用化鮮明も基礎築いた研究者は急速進歩に警鐘
ホップフィールド氏は物理学と生物学の理論を巧みに使った。磁性の振る舞いに関する物理学のモデルを基に脳の神経細胞の働きに関するモデルにも着目した。人の脳神経は神経細胞が多数張り巡らされ、ネットワークを構成している。同氏は神経細胞同士のつながりを模倣、入力したデータのパターンを記憶した上で再現するモデルを提唱し、1982年に機械学習の原型となる手法を発表した。
ヒントン氏は1986年までにこの手法をさらに発展させ、AIがより深く学習して答えを生み出す仕組みを提示。画像などの大量のデータからAIが特徴を見いだして自動的に学習する手法を開発した。2002年には新たな高速学習アルゴリズムを発表し、AIが膨大なデータを効率的に処理することを可能にして、機械学習の一種で発展型と言えるディープラーニングの飛躍的な進化につなげた。
同氏は2012年には「深層畳み込みニューラルネットワーク」によって従来の画像認識技術を超える精度を実現している。この成果により「第3次AIブーム」が始まり、世界中での生成AIの急速な普及につながった。このためAIを活用したサービスは両氏の成果がなければ実現しなかったとされる。現在スマートフォン(スマホ)などの顔認識機能や、翻訳など生活に欠かせない技術となっている。
化学賞は創薬に貢献するAI活用に
スウェーデンの王立科学アカデミーが今年のノーベル化学賞に選んだのは米グーグルのAI研究開発部門、英グーグルディープマインド最高経営責任者(CEO)のデミス・ハサビス氏、同社のジョン・ジャンパー氏、そして米ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授の3人だ。ハサビス氏は同社のAI囲碁ソフト「アルファ碁」の開発者で、アルファ碁で2016年に当時の世界トップクラスの韓国のプロ棋士に勝利したことで知られる。
3人の授賞理由は「計算によるタンパク質の設計」「タンパク質の構造予測」。タンパク質は一般的に20種類のアミノ酸で構成されるが、それぞれひも状に連なっていて立体的に折り畳まれて機能を発揮する。タンパク質の3次元構造でその働きが決まるため、構造が分からないと創薬などの研究開発が進まない。長い間アミノ酸の配列からタンパク質の立体構造を把握することは難しかった。また、構造がまだよく分からない重要なタンパク質も多く残っているとされる。