ノーベル物理・化学2賞ともAI分野に 実用化鮮明も基礎築いた研究者は急速進歩に警鐘
ただ、近年は世界的に関心が高い分野への授賞が目に付く。2023年の生理学・医学賞はメッセンジャーRNA(mRNA)を使った新型コロナウイルスワクチンの開発に道を開いたドイツのバイオ企業ビオンテック顧問で米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ客員教授と、同大学のドリュー・ワイスマン教授の2氏に贈られた。スウェーデンのカロリンスカ研究所は「(ワクチンは)世界中で130億回も投与され、何百万人もの命を救った。社会が通常に戻ることを可能にした」と社会的意義を高く評価している。
また2021年の物理学賞は地球の温暖化や気候変動の問題がほとんど注目されなかった1960年代から半世紀以上温暖化予測につながる研究に取り組んできた、地球科学者で米プリンストン大学上席研究員だった真鍋淑郎氏に授与されている。新型コロナウイルス感染症も気候変動も人類にとって脅威で、その脅威に立ち向かう研究成果は間違いなく人類に貢献するものだった。
AIの光が強いだけに影も
スウェーデンの王立科学アカデミーは今年の物理学賞の授賞理由の中で「今日の強力な機械学習の基礎を築いた」と表現、また化学賞の授賞理由の説明の中で「タンパク質の複雑な構造を予測するという50年来の問題を解決するAIモデルを開発した。非常に大きな可能性を秘めている」「独自のタンパク質を設計できるようになったのは人類にとって最大の利益」と表現している。
「強力な」という表現から現在の社会の中でAIが大きな存在感を示していることが、また「50年来」「最大の利益」という表現からは薬の開発という人類の健康・福祉の向上の鍵を握る分野での貢献を高く評価していることが、それぞれうかがえる。
生成AIの急速な普及やAIを駆使した自動運転に代表されるようにAIは世界中の社会や経済に大きな影響を与えている。現代社会を支える重要な基盤である科学技術は今やAI抜きに成り立たなくなりつつある。そして科学や科学技術の研究分野でAIは欠かせないツールになりつつある。