ノーベル物理・化学2賞ともAI分野に 実用化鮮明も基礎築いた研究者は急速進歩に警鐘
ベイカー氏はタンパク質構造を予測するコンピューターソフトを開発し、2003年に自然界には存在しない新しいタンパク質を設計したと発表。それまでは新しい機能を持つタンパク質をつくるためには既存のタンパク質に手を加えるしかなかったが、つくりたいタンパク質の形をつくることが可能になった。
ハサビス氏やジャンパー氏はディープマインドの成果としてタンパク質構造予測プログラム「アルファフォールド(AF)」と「アルファフォールド2(AF2)」を次々に開発し、2018~20年に発表や公開をした。このAI技術の登場により、ほぼ全てのタンパク質の構造を予測することが可能になり、タンパク質の機能の理解や薬、ワクチンの開発に大きな貢献をしたことが評価された。
医療の分野でも実用化進む
現在、タンパク質は医薬品の標的になっており、その構造を素早く解明できれば新薬や新たなワクチン開発の速度を大幅に向上できる。世界的な脅威となった新型コロナウイルスの研究でもタンパク質の構造予測は威力を発揮した。
AIの医学研究、医療への活用は創薬分野に限らない。画像診断支援や病態分析から人々の健康管理に至るまで既に広く実用化が進んでいる。国立がん研究センターと日本電気(NEC)が開発したAIを活用して大腸がんの前がん病変ポリープを見逃さないシステムは既に医療機器として承認されている。このほか、同センターのAIを活用して個人別最適医療を行う試みなど、臨床現場での活用例は数多い。
AIを組み込んだロボット活用の試みも進んでいる。医療現場でのAIの導入は医療スタッフの負担軽減や人手不足にも役立つとされている。また、AIによるオンライン診断などは過疎化が進む地方での活用が期待されている。
AIの進歩というと多くの人は生成AIや車の自動運転などを連想する人が多いが、こうした医療の分野での実用化は人間社会の福祉向上に貢献している。
社会の中でのAIの大きさを反映
ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者のアルフレッド・ノーベル氏が自分の発明が土木目的だけでなく武器として大量に利用されたことを悔やんで「人類に最大の貢献」をした人々に与える賞を設立するとの遺言を残したことから創設された。 第1回の授賞式はノーベル財団により、1901年に遺言にあった5分野の物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の各賞が贈られた。第1回の物理学賞の受賞者はX(エックス)線を発見したドイツの物理学者のヴィルヘルム・レントゲン氏だった。以来選考過程は秘密裏に進められるが、選考基準の最大のポイントは遺言にある「人類に最大の貢献」だ。歴代の自然科学分野の各賞の授賞理由を見ても「なるほど」と納得させる内容になっている。