深海の熱水噴出孔の岩をめくったら多彩な生きものがいた、驚きの発見、地下に未知の生態系
地下と海底にひとつながりの生態系か、海底部分はおそらく氷山の一角
エビ、カニ、チューブワーム、シンカイヒバリガイなどの二枚貝、さらに、何百種ものユニークな生きものたちが見つかっている深海の熱水噴出孔。その地下にも、複雑な生態系があることを示唆する最新の研究が、10月15日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された。これまで、熱水噴出孔周辺の地下に微生物が生息していることはわかっていたが、チューブワームや二枚貝などの大きな動物が実際に見つかったという報告は今回が初めてだ。 ギャラリー:奇妙で神秘的な深海動物たち 写真4点 熱水噴出孔は、2つのプレートの境界などに形成される海底の亀裂から、地熱で熱くなった海水が噴き出す場所だ。海底の大部分は、ほとんどの生物が暮らすことができないと考えられているが、熱水噴出孔の周辺には、生命が爆発的に存在する。 これらの生物は極端な高温や高圧でも生存できることから、「極限環境生物」と呼ばれている。また、地球上のほかの場所で食物網を支える太陽のエネルギー(光合成)に依存せず、海水と岩石が反応してできる物質を栄養として生きている。 海底の大部分は依然として謎に包まれている。マッピングされている海底はわずか26%だ。今回の研究は、海底にはこれまで考えられていたより多くの生物が暮らしている可能性を示唆している。 「(新しい)研究が行われるたび、私たちが海底についてどれほど理解していないかが裏付けられます」とカナダ、カルガリー大学の地質学者レイチェル・ラウアー氏は話す。ラウアー氏は今回の研究に参加していない。
海底とひとつながりの可能性
チューブワームが熱水噴出孔でどのように暮らしているかを調べるため、オランダ王立海洋研究所の海洋生物学者サビーネ・ゴルナー氏のチームは2023年7月、火山活動が活発な東太平洋海嶺(かいれい)に向けて出航した。そして、水深約2500メートルの熱水噴出孔に遠隔操作ロボットを送り込んだ。 当初の目的は、チューブワームの幼生を探すため、岩石サンプルを回収することだったが、岩石を運べる大きさに砕くのは難しかった。そこで、アームとカメラを搭載したロボットで海底の一部を持ち上げ、下にいるチューブワームの幼生を観察することにした。すると、ほかにもたくさんの生きものが出てきた。 海底の岩だらけの場所を引っくり返すと、深さ10センチほどの空洞が現れた。空洞は水とマグマが混ざった温かい液体、そして、一帯の海底のみで見られるチューブワームや多毛類、貝で満たされていた。 小さな空洞でチューブワームの幼生と成体が見つかったことは、この種の生活環を理解するうえで画期的な発見となる可能性がある。 チューブワームの幼生は複数の空洞の全体に分散しており、一部は海底の亀裂に定着し、一部は空洞にとどまって成体になるのではないかと研究チームは考えている。つまり、海底とその下にある小さな空洞は実はひとつながりの生態系であり、冷たい水と温かい水が混ざり合い、チューブワームの成長を促しているということだ。 「一帯の(熱水)噴出孔の生態系は、上から見えるものだけでなく、その下の生命も含まれているのです」とゴルナー氏は話す。 これらのユニークな極限環境生物を守るため、海底のより広い範囲を法的に保護する必要があると科学者たちは主張している。しかし、それには難題が立ちはだかる。なぜなら、こうした生態系の多くには、新技術を支える希少な鉱物も含まれているためだ。