タコの「体色変化」、エネルギー消費量は「23分間のランニング」相当
体色変化の代謝コストは?
タコは、そのカラフルな体色変化を実現するために、代謝コストを払うのだろうか? 「タコは苦もなく体色を変化させているように見えるが、実際はそうではない」と語るのは、ワシントン州にあるワラワラ大学の生物学教授で、ロザリオビーチ海洋研究所の所長を務めるカート・オンサンクだ。同氏によれば、タコの色素胞システムは高い代謝コストを伴う。タコは、このコストを切り詰めるように圧力を受けており、ここから、一部の種にみられる穴居性や夜行性のライフスタイル、そして深海性の種における色素胞システムの退化が説明できる可能性があるという。 急速な体色変化の代謝コストを知るため、オンサンクと、生物学専攻の修士課程大学院生ソフィー・ソナーは、タコを調べた。彼らは、17匹のOctopus rubescensを捕獲して、体色変化の前、最中、直後の酸素消費量を測定し、体色変化プロセスにどれだけのエネルギーが消費されたかを計算した。 さらにソナーとオンサンクは、色素胞の代謝コストを測定するため、微小な皮膚サンプルを採取して、青い点滅照明の下に置き、色素胞を活性化させて色の変化を起こした。皮膚サンプルの代謝量を測定することで、彼らは体色変化に伴う代謝コストと、実験室環境で動物に操作を加えることによるストレスを切り分けたのだ。 ソナーとオンサンクの研究により、平均的なタコは、全身の体色を変化させるのに、1時間あたり219マイクロモルの酸素を消費することがわかった。これは、タコが休息時にその他すべての身体機能(消化、呼吸、体液循環、臓器機能など)に消費するエネルギーに匹敵する。 このプロセスがタコにとって、いかに代謝コストが高いかを理解しやすいよう、オンサンクはヒトにたとえてこう説明した。もしもヒトがタコのような色が変化する皮膚をもっていたら、毎日390キロカロリーを余分に消費することになり、これは概算で23分間のランニングに相当する。 「この結果から、タコの色素胞システムは極めて代謝コストが高いことが明らかになった」と、ソナーとオンサンクは結論を述べた。 「神経系と筋肉系が関与する頭足類の体色変化は、さまざまな体色変化機構のなかでもっともエネルギー消費が激しいものと考えられる。したがって、本研究の推定値は、動物界における体色変化のコストの上限に近いだろう」 ソナーとオンサンクは、体色変化の代謝コストの高さから、タコという種族によく見られる行動パターンが説明できる可能性を示唆した。具体的には、巣穴に隠れ、夜にだけ活動することだ。 「巣穴の外に出たタコは、積極的に体色を変化させ、周囲に溶け込むようにする。結果として、活動時間の大半にわたって大部分の色素胞が活性化している」と、ソナーとオンサンクは論文で書いている。 「しかし巣穴に潜むタコは、捕食者の目につかず、獲物を積極的に探索してもいないため、色素胞システムを全面的に利用しているとは考えにくい。このようなエネルギーコストの削減は、多くの種のタコが、ほとんどの時間を巣穴に隠れて過ごす理由なのかもしれない」 出典:Sofie C. Sonner and Kirt L. Onthank (2024). High energetic cost of color change in octopuses, Proceedings of the National Academy of Sciences 121(48):e2408386121 | doi:10.1073/pnas.2408386121
GrrlScientist