「クリスマスっぽい」 クリスマス広告 はもはや時代遅れ? デジタルがクリスマスをどう変えたのか
たった1本のCMに、すべての予算と労力をかけない
ブランド間の首位争いも加熱している。今一番人気の有名人をカメオ出演させたり、AI生成の広告といった新機軸に挑むなど、どのブランドもクリスマス広告の制作に全力を傾けている。それは熾烈な競争だ。ときにいつものコースから外れることもある。もしかしたら、テレビ広告のキラーコンテンツを作ることに集中しすぎたのかもしれない。マーケターたちはますます多くの視聴者が集まるデジタルをすっかり失念したようだ。 話題作りのテレビ広告がやけに多いのはそのためかもしれない。狙いは、セレブやヒット曲を使って、人々をオンラインに誘導することだ。しかし、考えることは皆一緒。マークス&スペンサーとベイリーズ(Baileys)の広告は、いずれも女優のハンナ・ワディンガムを起用している。スーパーマーケットのアズダ(Asda)のCMでは、マイケル・ブーブレが演技と歌声の二刀流を披露、高級スーパーのウェイトローズ(Waitrose)の広告には、コメディアンのグラハム・ノートンがカメオ出演している。 電通の最高戦略責任者を務めるパトリシア・マクドナルド氏によると、「いまや多くのクライアントやCMOが独自のエンターテインメントプラットフォームを作りたがる」という。「短尺動画であれドキュメンタリーであれシリーズ物であれ、たかだか60秒のCMにすべてを傾けるよりも、クリスマスを軸にもっと多様なコンテンツが作れるはずだと感じている」。 祝祭気分の広告が的外れで不出来だというわけではない。巧みに作られたクリスマスCMには不滅の力がある。ただ、環境が変化したことで、マーケターたちは誰もが今年最大と認めるキャンペーンに対して、どうアプローチすべきか再考する必要に迫られている。たとえば、ジョンルイスもそうだ。多くの小売企業と同じく、クリスマス広告のキャラクターを商品化するという新たな収益機会に眼をつけた。単発のテレビ広告から始まったアイデアが、ひとつの包括的なパッケージへと姿を変えたのだ。 「その一因はソーシャルにあり、メインストリームのオーディエンスの関心がますます断片化しているためだろう」と、ウイアーソーシャル(We Are Social)でエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるサイモン・リチングス氏は述べている。「あちこちで拡散する類いのコンテンツが必要だ。それなのに、誰もが見てくれると期待して、予算と労力のすべてをつぎ込み、映画のような大型のCMを作る。そしてゴールデンタイムにその全編を見てもらおうと、2分間のCM枠に巨額の媒体費を支払う。多くの人が接触しないたった1本のCMに、すべての予算と労力をかけるなど、いわゆるひとつのカゴにすべての卵というやつだ」。