父は脳梗塞のあと認知症、母は歩行不自由…それでも絶縁した「芸能志望の妹」は帰ってこない
「介護のきょうだい格差」――親の介護下で、きょうだい間に生じた格差、についてのこの連載。 【マンガを読む】親の介護、家業、夫の世話まで…「自分の時間」がなかった50代女性 「連載をはじめた理由は、自分が母親の介護をしていて、兄が何も関わらないことに不満を感じたことが理由でした。でも、いろんな方々に“きょうだいとの関係”を伺ってみると、介護に関すること以上に、幼い頃から脈々と続いた親の過干渉――“毒親”の問題、きょうだい間の差別問題、親世代の家父長制意識などが深く根付いていることが見えてきます。 また、取材でインタビューをして感じるのは、同じDNAを受け継ぎ、身近な存在であるきょうだいなのにわかりあえない現状に、憎しみやつらさ以上に悲しみを感じている人もとても多いこと。もちろん、きょうだいもそれぞれが個人であって、同じように生きる必要はありません。私自身兄に対してそう思っています。でも、両親という存在がなくなったとき、残されたきょうだいはどんな関係になっていくのか、“きょうだいとは、一体何なんだろう”と感じることは多いですね」 こう語るのは、この連載の執筆者である、フリー編集者でライターの佐々木美和さん(47歳)だ。 今回は、妹との関係が断絶状態であるマリさん(仮名・49歳)の体験談を追っていく。前編では、マリさんの妹・エミさん(仮名・46歳)がどのようないきさつで家族から離れていったのかを伺った。後編では、老いを迎えた両親とともに、離れた妹について今どう考えるのかーー。引き続きお伝えする。
妹に「会いたい、許してほしい」と泣く両親
前編の冒頭でもお伝えしたが、マリさんは家族から離れた妹さんを責めてはいない。 「ある意味、妹にとって両親は“毒親”だったのかもしれません。妹の夢であったモデル仕事や芸能界の仕事を反対し続けたのですから。そして、私自身も妹の気持ちの寄り添うことができなかった姉だったのかもしれない……。今、妹は46歳になります。年齢的に見れば妹ももういい大人です。お互いに家庭もあるのですから、関係が途絶えても仕方ないことなのかなと思う部分もあります。 でも、私自身子育てもある程度落ち着いて、やっと少し気持ちに余裕が生まれて、妹の問題にもきちんと向き合えるかなと思っていました。そんな矢先に父が脳梗塞で倒れたんです。幸い命は取り留めたものの、右半身の麻痺が残り、軽度の認知症で現在、要介護3で介護が必要になりました。現在は、デイサービスを使って、朝夕にはヘルパーさんに来て頂いてケアしていただいています。私も時間があるときは、実家で作り置きの料理をストックするなど、ケアしています」 父親が倒れた際、妹のエミさんにも連絡を入れたそうだが、コールバックはなかったという。マリさんはエミさんの携帯番号の留守番電話に父親の無事だけを知らせた。 「妹への連絡は今も一方通行です。父は認知症が出てきているものの、軽度なので記憶はしっかりしている部分がまだまだあります。どちらかというと記憶よりも感情のコントロールがうまくいかず、最近は頻繁に泣くんです。そして、『エミはどこにいるんだ、エミに会いたい』って……。嘘をついて、『エミちゃんは今お仕事がとっても忙しいんだって、元気にがんばっているよ』と伝えるんですが、『私が強く言ったから、エミは家を出て行ってしまったんだ、本当に悪いことをした』って涙をポロポロと流すんです。 そんな父を見て、母もいっしょに号泣するんです。最近は、母のほうが、今はうつっぽい症状が強いかもしれません。父の様子を見に行っても、母が『夜眠れなくて、寝てもね、エミちゃんの夢を見るのよ、ママのこと今も怒っているんだなって思うと、ダメな親だったなと後悔ばかりで……』と覇気のない顔で言われ、食欲不振でやせてきてしまい、心配しています」