父は脳梗塞のあと認知症、母は歩行不自由…それでも絶縁した「芸能志望の妹」は帰ってこない
「悔いを残さず旅立つ」ことの難しさ
何度も「もう妹はいないことと思おう、妹も独立してやっていっているのだから……」と思っても、両親から妹に会いたいと泣かれると、どうしていいかわからなくなるとマリさんは言う。 親も人間だ、間違えてしまうこともある。ただ、その間違いで親が想像できないほど子どもは深く傷ついてしまうこともある。マリさんは自分も親となり、両者の気持ちがわかるからこそ、両親の娘に会いたい気持ち、会って謝りたい気持ち、そして両親に会わない妹さんの気持ちもわかる故に、苦しいという。 ちょうどこの原稿を整える作業をしていた6月20日、NHKの朝の連続ドラマ『虎に翼』で、寅子の母親・はる(石田ゆり子)が心労で倒れた場面が描かれた。家でしばらく預かることになっていた戦争孤児の少年・道男(和田庵)に疑惑の目を向けて追い出してしまったことを後悔していたはるは、死ぬ前に会いたいと寅子に伝える。そして、道男を探し出し、最後に再会する……。はるは「母さんはね、何にも悔いはないの。いろんなことがあった人生だったけど、悔いは何一つない。先のことはよろしくね」と言って旅立った。しかし、こんなセリフを言って旅立てる人は少ない。多くの人は悔いを残し、会いたい人、謝りたいへ思いを残して逝くことが多い……。 マリさんにこの原稿の内容確認で電話をする予定があった。雑談ついでに『虎に翼』のはるさんの場面について話をしてみた。すると、マリさんもこの場面を複雑な思いで見たという。 「実は、ドラマを観て心がざわざわして、なんだか急がなくちゃって気持ちになって、妹に電話を入れてみました。なんか、両親だけでなく、妹が後悔していたらどうしようって思ってしまって……。でも、やっぱり電話には出てもらえませんでした。LINEも知らないので、携帯の留守番機能に、『元気ですか、生きていますか? お父さんとお母さんも歳を取りました。エミに毎日のように謝っています。これはね、許してって電話じゃないの。許さなくてもいい。でも、会ってくれたらうれしいです……。でも、無理はしないでね』と伝えました。 まだ、電話はかかってきてないけど、父親の認知症が進まないうちに、会うことができたら、と思っています。妹がどう思うかわかりませんが、私たちはまだ繋がることができる、と 伝えたいと思ったのです」 とても近くて、でも遠い存在にもなりがちな“きょうだい”という関係……。次回も様々な視点で“きょうだい”が抱える問題を取材していきたいと思っている。
佐々木 美和