父は脳梗塞のあと認知症、母は歩行不自由…それでも絶縁した「芸能志望の妹」は帰ってこない
縁が切れない苦しさ、縁を切った苦しみ
マリさんのお話を聞いていると、私の思いも混乱する。 私自身、母との関係がうまくいかず、母から離れようと思ったことは数知れない。マリさんの妹のエミさんの怒りに近い感情を抱いたこともある。 頑固で支配的で介護は女が担うものだと思っていて、まったく何もしない兄に対しては永遠に甘い……頭にくることばかりだ。母の介護をしながら、「昔私にあんなひどいことを言ったのにどうして私に平気でこんなことを頼めるのだろう」と心の奥底からドス黒い気持ちがムクムクと湧き出てしまうことがある。そのたびに「もうやめよう」「次に同じことをされたら二度と母のケアはしない」と思う。 でも、私は昔のように母に言われっぱなしではない。母に言い返し、逆に母はぐうの音も出なくて「あなたの言う通り、お母さんはダメところばかりなのよ。でも、もうこの年齢だと直らないのよ、わかって」と悲しそうな顔をする。その悲しそうな顔にこちらを加害者扱いするのかとまた腹が立ったりもするのだが、でも、小さくなり、一人ではできないことも増えた弱った母には心が痛む。なぜ私は今もこんなに小さくなった母に今もこんなにも憤ってしまうのだろうと、いい歳をした自分がいつまでも大人になれないことが問題なのではないのか、と苦しくなる。親子のしこった部分やよどんだ部分は、きっと逃げても悩み、逃げられなくても悩むのだろう。 「そうですね。どちらもつらいのかもしれませんね。私自身、両親の介護を今ひとりでやっていることはぶっちゃければ大変です。でも、介護のために妹に帰ってきてほしいとは思いません。ここまで両親だけでなく私にも連絡をしてこない妹には、きっと想像ができないほどの怒りがあるんだと思うんです。10代の頃、妹が華やかな世界に憧れて色々な夢を語ったときに、私は彼女の話に共感したり、賛同したりあまりしてきませんでした。私のことも妹は見限ったのだと思うんです。だから、両親のことは私が出来る範囲でケアしてこうと決めています。 うまく言えないんですが、妹の本心はわかりませんが、きっと妹も家族を捨てたことに苦しみもあると思うんです。怒りを、持ち続けるのもとってもつらい感情だと思うから。これは佐々木さん自身、感じていることだから言わずもがなだと思いますが……。でも、本当に家族って、どんな形でも難しいですね」 とマリさんは少し悲しそうにため息をついた。