優遇しているようで実は差別的 ―― 根強い専業主婦志向を生む「年収の壁」の矛盾 #昭和98年
周燕飛(日本女子大学教授)=根本的な問題は第3号被保険者制度
「今回の支援パッケージの導入で、働く時間を増やす主婦は出てくるでしょう。でも、この対応は場当たり的で、私はあまり評価していません」 女性の労働問題を研究する日本女子大学の周燕飛教授はそう評するとともに、もっと根本的な問題を解決すべきだと指摘する。その問題とは、年金制度の「第3号被保険者」だ。 「第3号被保険者は、サラリーマンの妻が主な対象者ですが、とても不公平な制度です。この制度ができたのは1985年、男女雇用機会均等法と同じ年です。一方では、女性も男性と同様に働ける法を整備しつつ、他方では専業主婦を優遇する年金制度を設けている。非常にチグハグな政策が同時に行われていたように思います」
周教授は中国、日本、米国での研究生活を経て、2021年、日本女子大学教授に就任した。2019年には専業主婦を取り巻く課題を記した『貧困専業主婦』を刊行した。そんな周教授にとって違和感を禁じ得ないのが、年金制度の第3号被保険者という制度だ。 年金制度は被保険者を3つに分類している。第1号は自営業者やその配偶者、そして学生。第2号は会社員や公務員など組織に勤務するサラリーマン。そして第3号は第2号被保険者の配偶者が対象で、年収130万円未満が資格の条件になっている。問題は、第1号も第2号も年金保険料を加入者本人が(第2号では組織も)支払っているのに、第3号は支払っていないことだ。
「第3号被保険者の年金保険料は、夫と夫の所属する組織が妻の保険料も納めているという建前です。でも実際には、夫が妻の分を割り増しで負担しているわけではありません。なにより問題なのは、“仕事と家庭を両立する”というライフコースより、専業主婦もしくはパート主婦という“伝統コース”に女性を誘導する政策効果があることです。女性活躍という視点から見ると、非常に問題だと思います」 女性の労働力人口(※)は長期的に増え続けている。総務省の調査によると、1985年には2367万人だったが2023年は3124万人。労働力人口総数の45.1%を占めている。 (※)労働力人口…15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせたもの