平田晃久の建築が作る「波打ちぎわ」へ。自身が建て替えを手がける〈練馬区立美術館〉で大規模個展を開催中。
「ワークショップに参加したのは将来ここで活動する人や、さらにその先に使うであろう人たちに伝える人たちです。〈太田市美術館・図書館〉ではどんな建物にするか、“建物をつくる”ことの意味を変えたと思います。〈練馬区立美術館・貫井図書館〉のワークショップでは実際に使い倒されるように“仕込み”をしました」
〈太田市美術館・図書館〉のワークショップではみんなで形を作っていったけれど、〈練馬区立美術館・貫井図書館〉では使い方を考えてもらうことに重心を置いているということだ。 この〈練馬区立美術館・貫井図書館〉は「現代の富士塚」でもあると平田はいう。富士塚とは江戸時代、主に関東地方で小さな丘や人工の盛り土を“ミニ富士山”に見立ててお詣りしたり、そこから本物の富士山を拝んだりするものだ。〈練馬区立美術館・貫井図書館〉の大きな屋根は富士山の方向に向かって大きな階段状になっていて、天気がよければ富士山が見えるという。
「〈練馬区立美術館・貫井図書館〉がある中村橋には富士塚がないので、新しく造ろうと思ったんです。富士塚というコピーから富士山というオリジナルを見るという関係って現代美術のようだな、とも思いました。江戸時代に作られた“アート”が郷土の歴史や人々の記憶を今につなげてくれるのでは」
「響きの響き-時空の波打ちぎわ」と題された展示室3では、照明を落とした部屋の中に模型が並んでいる。壁際のガラスケースには縄文土器や浮世絵などが展示されている。
「展示室2では“今”、建築を使う人の意識や無意識について考えてきたわけですが、展示室3では今ではないいつか、ここではないどこか、私ではない誰かが使うことを考えたい。それらは想像力を働かせることでしか体験できないものでもあるけれど、現在性の響きだけでなく、そんな時空を超えた“響き”を想像してみようと思いました」
ガラスケースに展示されているものの中には滋賀県守山市に所在する「伊勢遺跡」の祭殿の棟持柱の柱根がある。今からおよそ1900年前、弥生時代後期の遺跡だ。大型の建物跡が13棟も発見されており、祭祀や政治の場だったと考えられている。展示されている棟持柱の柱根は、伊勢神宮のものと同じ形式の柱の柱根だという。 「滋賀にあるのになぜか伊勢神宮と同じ形式の祭殿があり、名前も伊勢遺跡です。日本という国の『波打ちぎわ』を思わせます」