平田晃久の建築が作る「波打ちぎわ」へ。自身が建て替えを手がける〈練馬区立美術館〉で大規模個展を開催中。
さらに彼は近年、展示室2・3のタイトルにも入っている「響き」についても考えるようになった。 「〈太田市美術館・図書館〉では設計段階でワークショップを行い、たくさんの町の人々の意見を聞いて建築の姿に吸着させる、というプロセスをとっています。人々の声が集合して『響き』になる、その響きと対話しながら建築を作っていきました。言い換えると建築は身体のからまりしろというだけでなく、いろんな人の意識のからまりしろでもあると思います。そのときに、個々の人々のはっきりとした意識だけでなく、それが集まって何か別のもの、無意識に近いものが現れることがある。その意識と無意識の間の波打ちぎわに出ていって建築をつくるということもあり得るだろうと思うのです。それを展示室2の『響き-意識の波打ちぎわ』と名づけました」
通常は建築家や設計事務所が形をつくる。〈太田市美術館・図書館〉のように他者の声を設計に反映させるということは、これまでの設計プロセスとは異なるやり方だ。 「建築家が作品をつくるという、安定した領域が完全に崩されてしまうわけではないけれど、建築家としての自我が半分崩れるかもしれない『波打ちぎわ』でつくることになると思います」
平田は“みんなでつくる”ともいえる、〈太田市美術館・図書館〉で試行したこの方法論を、その後のプロジェクトでも応用している。〈ホントカ。小千谷市ひと・まち・文化共創拠点〉は新潟県小千谷市で9月に竣工する、図書館を中心とした複合施設。ここではワークショップでの人々の「響き」を数理的な方法で解析し、設計に反映させている。〈臺灣大學藝文大樓/百歳紀念館〉ではAIとの対話から「響き」を聞き取るという方法をとった。
〈練馬区立美術館・貫井図書館〉でも〈太田市美術館・図書館〉と同じように、住民にヒアリングするワークショップを実施している。ワークショップでは白い模型にさまざまな活動をコラージュするといったことも行われた。そこで制作されたものが会場でも展示されている。