新型コロナで注目「オンライン診療」の課題とは? 医療崩壊を止められるのか
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、「医療崩壊」の危機を訴える声が強まっています。160人以上の感染者が出ている東京・台東区の永寿総合病院をはじめ、複数の病院で院内感染が発生しており、実際に外来診療の中止を余儀なくされるケースも出ています。 こうした中、注目されているのが、インターネットを利用して病院に行かなくても診療を受けることができる「オンライン診療」です。 3月末、首相官邸で開かれた経済財政諮問会議で、安倍晋三首相が「患者の方々のみならず、コロナウイルスとの闘いの最前線で活躍されている医師・看護師の皆様を、院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を活用していくことが重要」と発言。その後、厚生労働省も、現在は原則として認められていない受診歴のない初診患者へのオンライン診療を、感染が収まるまでの期間限定で解禁する方針を示し、13日から実際に始まっています。 オンライン診療は、医療崩壊を防ぐ特効薬になり得るのでしょうか?
オンライン診療のこれまでの流れ
「今回のコロナに限り、初診から(オンライン診療を)認めるということは考えてもいいのではないか」 4月6日に開かれた東京都医師会の記者会見。「医療的緊急事態宣言」という独自の見解を出し、6週間の外出自粛を求めた尾崎治夫会長は、記者からオンライン診療に関して問われて、このように答え、オンライン診療の活用に前向きな姿勢を示しました。しかし、この直後、「ただ、これをもって、今後、オンライン診療すべて、初診の対面はいらないということでは絶対にない」と話し、あくまで非常時の措置であることを付け加えました。 オンライン診療とは、パソコンやスマートフォンなどのビデオ通話を通じて、リアルタイムで診療するというものです。物理的な距離が離れていても、顔と顔を見合わせて診察ができるため、医師不足の問題などを解決する手立てとなるのではないかと期待されてきました。 しかし、もともと医師法(1948年)で無診察診療が禁止されていることと、オンライン診療に整合性があるかどうかが問題とされてきました。 こうした中、1997年に厚生省(現在の厚生労働省)が通知を出し、初診患者は原則対面診療としながらも、遠隔診療(現在でいうオンライン診療)でも差し支えないケースとして、離島やへき地の患者などを例示します。 このような範囲内で行われていたオンライン診療ですが、2015年に大きく流れが変わります。この年の6月に閣議決定された「骨太の方針2015」に「遠隔医療の推進」が盛り込まれ、8月には厚生労働省が遠隔医療は「離島やへき地に限るものではない」という内容の事務連絡を出します。これにより、オンライン診療が実質的に「解禁」されることになりました。 これにより、ベンチャー企業などがオンライン診療のシステムの構築に意欲的に取り組み始めるなど、オンライン診療に関心のある医師だけでなく、関連の業界も盛り上がります。単純に医者が個人で所有しているスマートフォンの既存のアプリなどを使って診察するということでは、個人情報を守ることはできません。このため、セキュリティがしっかりとしたシステムが必須になるからです。 そして、2018年には診療報酬の改定があり、それまでの「電話等再診」という枠組みを使った算定方法に変わり、「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」などが新設され、正式に保険診療の中に組み入れられることになります。 「これできちんとオンライン診療が進められる。最初はそう思いました」 外房こどもクリニック理事長・日本オンライン診療研究会会長で、厚生労働省のオンライン診療に関する検討会のメンバーでもある黒木春郎医師は当時を振り返ります。 しかし、実際にはオンライン診療は思うように広がりませんでした。新たな仕組みで保険適用できる対象は糖尿病とか高血圧とか、慢性疾患に限るという疾患制限があったことと、診療報酬が対面での診療に比べて低く設定されたことが大きく響いたためです。 黒木医師は「医師にとっては、患者さんに通院してもらったほうが収入は上がるわけです。わざわざ、オンライン診療をやろうとすると、システムの導入などで経費はかかるし、明らかに減収する。運営上マイナスだから、当然、広がりません。そんな状況でこの2年ぐらい来てしまった。今年4月に保険の点数の改正はありましたが、基本的なところは変わっていません」と話します。 厚生労働省は、オンライン診療を容認する一方で、対象となる疾患などの範囲を限定し、結果として拡大させないような策をとってきたようにも見えます。その背景には、東京都医師会の尾崎会長が記者会見の最後に「非常時の措置であること」を念押ししたことからもうかがえるように、日本医師会がオンライン診療の全面的な解禁に慎重な姿勢を崩していないことがある、との声もあります。日本医師会は「テレビ画面を通じた診療では、得られる情報が限られて、きちんとした診療はできない」などとして、診療の質の低下を懸念しています。さらに、その裏側には「都会の評判の良い医師のところなどに患者が集まってしまい、地方の開業医などの経営が苦しくなってしまうのではないか」という危惧もあるようです。