8割が「感染しても相手に伝えない」――梅毒急増の背景に性感染症の“誤解と軽視” #性のギモン
本来、別の疾患で処方された抗菌薬を自己判断で使用するべきではない。今回、取材を通して性感染症のリスクについて改めて知ったトモヤさんは、治療を軽視する気持ちがあったと話した。 「マッチングアプリやワンナイトで不特定の人と性行為をしていたので、(性感染症に)かかってしまったら自己責任、アンラッキーというくらいに思っていました。今思えば、軽い性病でラッキーだったかなっていうのはあって。もし自分が梅毒にかかっていたらと思うと怖いです」
NHKの調査では、「性感染症になった」または「感染の不安があった」ときに医療機関を受診したり保健所で検査を受けたりしたのは、およそ半数にとどまる。また、自分の感染や感染の不安について性行為の相手に相談したのはわずか18.6%と、8割以上が相手に伝えていないことも明らかになった。 東京・新橋の性感染症専門クリニックで月に500~600人の患者を診察する医師の福地裕三さんは、感染した人が適切な検査や治療に結びつかないことが感染拡大の要因になっていると指摘する。
「例えば最近では、『個人輸入で手に入る抗菌薬がクラミジアに効く』という情報がネットで出回り、自己対処しているケースが男性に多い印象です。その抗菌薬は淋病や梅毒には効かないので、淋病の症状が出てようやく当院を受診した、という方がいらっしゃいます。感染の発見や治療の遅れにとどまらず、そのまま放置されるケースも少なからずあるのではないかと強い危機感を持っています。治療せず放置すると、感染を広げるだけでなく、特に女性は不妊の原因になったり胎児が感染したりするなど重大な影響が出るおそれがあります。初期の適切な検査・診療の普及が急務です」 性感染症が疑われるときは、専門のクリニックや泌尿器科・婦人科などを受診し、検査を受ける必要がある。保健所で匿名や無料で検査を受けられる自治体もある。福地医師によると、性感染症の診断に慣れていない医療機関を受診した場合、正確に診断されず発見や治療開始が遅れるケースがあるという。 「じんましんのような症状が出たとき、アレルギー薬を処方されてそのままになっていた患者さんが、症状が悪化してようやく当院に来られたこともあります。積極的に梅毒を疑わないと問診で性に関する質問や検査もしないので、発見されにくいのです。そのまま性生活や性の仕事を続けると結局感染を広げてしまいます。心あたりがあるときは、すぐに性感染症に詳しいクリニックを受診してほしいです」