西武の松坂大輔が引退試合で”魂の5球”に込めた思いとは?
松坂はマウンドに上がる際に4つの心得があったという。 「逃げない」「立ち向かう」「どんな状況もすべて受け入れる」「自分に不利な状況も跳ね返してやる」 最後のマウンドにも、その思いがかいまみえた。 5球目。116キロのストレートが指にひっかかって内側に大きく外れた。 フォアボール…一瞬の沈黙のあと、これが本当の最後だと知ったファンはスタンディングオベーション。両軍ベンチの選手も全員が立ち上がって拍手を送っていた。西口投手コーチがマウンドに向かい、辻監督は投手交代を告げた。 「悪かったな」 松坂の口がそう動いたように見えた。 松坂はマウンドに集まったナイン全員と握手して感謝の意を示して、スタンドに手をあげて駆け足でマウンドを降りると、まず日ハムのベンチに向かい帽子をとって頭をさげた。 続いて歩いて三塁ベンチへ。辻監督と握手をしてベンチへ下がり、後を受けた十亀が後続を断ち切り無失点でこのイニングを終えると、ほっとしたような笑顔を見せた。 栄光と挫折の23年間だった。 1999年のルーキーイヤーに16勝をマークして最多勝&新人王。5月に対戦したイチローから3打席連続三振を奪い「自信が確信に変わった」は名言として残った。3年連続で2桁勝利をあげ2001年には沢村賞を受賞した。最多勝3度、最優秀防御率2度、最多奪三振4度、ゴールデングラブ賞は7度受賞である。 歯車が狂ったのは13年前だ。レッドソックスに移籍して2年目。開幕から8連勝するなどメジャーのスタイルにも慣れ、そのピッチングは凄みを増していた。だが、5月のオークランド遠征中に登板間のブルペンでの投球練習に向かう際に足が滑り咄嗟にポールのようなものをつかんだ際に右肩を痛めた。 その年、松坂は18勝3敗の好成績を残した。だが、オフには「いつもの肩の状態じゃないと思った」という。2009年は開幕前にWBCで優勝。松坂はMVPに輝いているが、「(投球)フォームが大きく変わり始めたのが2009年頃。痛くない投げ方、痛みが出ても投げられる投げ方を探し始めた。自分が追い求めるボールは投げられてなかった」のが真実だった。