鴻海・関氏「日本は最重要」、日産買収計画の責任者が語る「EV生産シェア4割」驚愕シナリオ…M&Aで開発・製造強化
■ 日産を買収したいのはなぜか 現在のEV市場はまだ黎明期に近い状態。こうした中では先行するテスラやBYDは自前主義で、自社内にあらゆる技術を取り込んでEVを開発し、それが開発スピードの速さの一因にもなっている。 しかし、これが普及期になり、新規参入企業が増え市場での価格競争が激化すると、既存の自動車メーカーも含め、自前でのEV開発ではなくCDMSモデルに変化していくと関氏は見ている。このため、普及期に鴻海のEV事業の世界生産シェアは40%と、高い目標を掲げている。当然、そこには顧客として日本の大手自動車メーカーも視野に入っている。 この目標達成に向けて鴻海が準備しなければならないことは、車づくりのノウハウを磨くことだ。さらなるコスト競争力、時代の先端を行く技術力を、開発・製造の両面で身に着けなければならないのだ。 たとえば、EVはこれからAIと融合し、ロボットカーとなるだろう。こうした車は、SDV(Software Defined Vehicle=ソフトウエアで定義される車)と呼ばれ、ソフトウエアの開発力が優勝劣敗を左右することになる。 SDVとは、「Smartphone on the Wheel」(タイヤの上にスマートフォンが載っている)のような車とも見てとれる。そのスマホをつくることを最も得意とする鴻海がSDVの時代に自動車産業に参入するのは当然の戦略として出てくる。 そこで、EVにおけるCDMSを強化する過程において、スピード経営をモットーとする鴻海が自社では足りない技術やノウハウは提携やM&Aで補い、強化していくことを狙った。そうした流れの中で、鴻海がコントロールできる規模の自動車メーカーの買収を目論むのは合理的な判断と言えるだろう。 海外にも多くの製造、開発拠点を持つ自動車メーカーを丸ごと買収すれば、ノウハウが一気に手に入れられることになるからだ。それのターゲットの一つが、日産だとみられる。 鴻海が日産買収を目論んでいるとみられる背景には、日産が持つ開発・製造の事業基盤をグローバルで活用し、CDMSを早期に強化・拡大していくための戦略があるようだ。経営難に陥っている日産を買収し、劇的な構造改革を推進し、鴻海が得意とする圧倒的な低コストで高品質な製品を生産するノウハウを注入して経営を再建。同時に、日産の開発力などを活かしてグローバルにCDMSの顧客を拡大していく青写真を描いているのではないだろうか。 今回、日産がホンダとの経営統合に向けて動いていることで、鴻海の買収計画は実現するか否かは不透明だ。だが、日産を買収できなくても、鴻海は次のターゲットを定める可能性は高いだろう。いやもう定めているのかもしれない。 井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト 1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略! サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。
井上 久男