「首の葉っぱ」「髪がお散歩や」ダウン症の娘の言葉で創作落語を作る母子の軌跡「娘の質問には地獄の果てまでつき合って」
── なかなかできることではないですよね。 喜美子さん:もちろん、忙しいときは「今ごはんを作っているから待ってね」と言ったり、「有香ちゃんはどう思う?」と質問を返したりしてもいいそうです。ただ、邪険にはしないようにしました。強い口調で叱ることや、人の悪口を聞かせることもしないようにしています。姑の介護をしていたころ、忙しくてつい「早くしなさい!」と強い口調で叱ったことがあったんです。そうしたら有香が学校で「虐待されました」と言ったと聞いて、慌てて担任の先生に電話をしました(笑)。そのときのことを有香が「ぎゃくたい」という詩にしました。「心が破けて血が出た」と。
有香さん:私はちょっと叱られただけで高熱が出るんです。高熱が出て、救急に運ばれたことがありまして、点滴してもらうときに(まさか血管に針を刺すものだとは知らなくて驚いて)「そこは血管よ!」と叫んだんです。怒るとお金(救急にかかる医療費)がもったいないから、お母さんは気をつけているんです。 喜美子さん:病院の先生には「怒ったくらいで熱は出ません」と言われるんですけど、本当に出るんですよね。それから、これも療育の先生に言われたのですが、この子たちが夢を語ったときは「どうすれば実現させられるか」を伝えるよりも、夢をきらめかせることが大切なのだそうです。たとえば子どもが「歯医者さんになりたい」と言ったら、親はつい「大学の歯学部へ行かないとなれないよ」と言いたくなりますけれど、「どんな歯医者さんになりたいの?」と、夢をきらめかせるような言葉をかけるようにしています。
■「勝負にこだわらないと言っていたのは」 ── D-1グランプリはいかがでしたか。 有香さん:なんと、私が優勝しました!大きいトロフィーをもらうことなんて、人生で初めてだったんです。お父さんは昔アーチェリーをやっていて、アーチェリーでもらったトロフィーと私のトロフィーをくらべたら私のほうが大きいんです。 喜美子さん:それまで勝つことへの執着はなかったのに、トロフィーをもらったらすごく喜んで。「私が勝負にこだわらないと言っていたのは、勝つことに自信がないから」と言うんです。やっぱり勝てば嬉しいですよね。