「首の葉っぱ」「髪がお散歩や」ダウン症の娘の言葉で創作落語を作る母子の軌跡「娘の質問には地獄の果てまでつき合って」
── 台本を考えるのは大変ではないですか。 喜美子さん:落語には有香のことを書いています。私は、有香が小さいころから言葉がどうやって発達していくのかに関心を持って、有香の言葉を書きとめてきました。5歳ころから「ユニークな発想をするな」と感じる言葉が出るようになって、それが私にとってはめちゃくちゃおもしろい。「どなたか芸人さんが、このネタ帳を使ってお笑いにしてくれないかな」と思っていました。「そうすれば、この子たちのおもしろさが伝わるのに」って。落語に「老婆の休日」という演目があるのですが、そこに出てくるお年寄りの話がおもしろくて。「これってうちの子と同じや、これなら自分でも書けるかもしれない」と思いました。
── ユニークな発想というのは? 喜美子さん:小学2年生のとき、遅刻しないように私が「早くしなさい」と言って有香が小走りになったら、ランドセルにぶら下げている給食袋が大きく揺れて足にポンポン当たったんです。そうしたら「給食袋も『ゆかちゃんあほや』と怒ってる」と表現したことがありました。寝ぐせが直らないとき「どうやっても髪がお散歩や」と言ったり、セーラー服の襟を「首の葉っぱ」と表現したり。そんな有香の言葉を網ですくうようにして、ホームページに書きとめてきました。そのうちに、有香が自分のことや家族のこと、学校の先生やお友達のことを詩に書くようになったのです。書いた詩を学校へ持っていくと先生が壁に貼ってくださって、お友達が感想を書いてくれました。
■子どもの質問攻めには「地獄の果てまでつき合って」 ── すてきですね。言葉を育むために、心がけてこられたことはありますか。読み聞かせとか? 喜美子さん:読み聞かせは、私はあまりしなかったのですが、夫が有香が0歳のときから一生懸命していました。有香は父親が買い与える図鑑が好きで、学童期によく読んでいましたので、有香は本が好きな子どもだったと思います。 言葉に関しては、私は、有香が質問してくることには辛抱強く答えるようにしてきました。4歳のときに、トイレへ行くたびに「(流れたものは)どこへ行ったの」「電車に乗って行ったの」と毎回同じことを聞かれて。何度も答えているから「わかっているはずなのに」とこちらもイライラしてしまったことがあります。専門の先生に「どうやって話を終わらせればいいですか」と質問をしたら「地獄の果てまでつき合ってあげてください」と言われました(笑)。「子どもは答えを知りたいのではない。親がどこまで応えてくれるかを試しているんです」と。