破裂音、噴煙、飛び交う岩石…10年前の御嶽山噴火、その時何が 死者58人、行方不明者5人の災害で変わった人生
「ゴーッ」という地鳴り。陸上のスターターピストルのような破裂音。2014年9月27日午前11時52分、長野、岐阜県境の御嶽山頂(標高3067メートル)。噴火に巻き込まれ、生還した登山者はその瞬間をこう振り返る。直後に真っ黒な噴煙が立ち上がり、山頂には火山灰と噴石が容赦なく降り注いだ。 【写真】富士山降灰時「できる限り自宅」 家屋倒壊恐れ、土石流なら避難
58人が死亡、5人が行方不明となった災害のその時、何が起きていたのか。噴火は関係者の人生をどう変えたのか。噴火から10年の機会に証言をたどる。(共同通信御嶽山噴火取材班) ▽意識のない女性、うめく青年…「ここで死ぬかも」 スターターピストルのような破裂音を聞いたのは神奈川県綾瀬市の会社員里見智秀さん(58)。会社の同僚と登頂し、記念写真を撮った直後だった。「なぜ何もない山頂でこんな音が」。間髪入れずに同じ音が聞こえ、立ち上る噴煙も見えた。噴火だと直感した。 1991年に雲仙・普賢岳(長崎県)で起きた火砕流の映像が頭をよぎる。里見さんは「ここで焼け死ぬかもしれない」と感じた。近くにあった祈禱(きとう)所の、お守りなどを販売するカウンターの下に身を潜めた。空を覆う火山灰で闇と熱気に包まれる中、娘の顔を思い浮かべた。 やがて視界が晴れた。外へ出ると、灰に足を取られて抜け出せない人やリュックサックの一部が見えた。必死に手でかき分けたが、呼吸が確認できない人はそのままにして下山するしかなかった。下山後、同僚5人が亡くなったことを知った。1人は行方不明のままだ。里見さんにけがはなかった。
愛知県豊川市の会社員小野田猛さん(62)は「ゴーッ」という地鳴りが聞こえた後、神社の後ろから真っ黒い噴煙が上がるのが「スローモーションのように見えた」。 近くの社務所の軒下に逃げた。大量の火山灰に埋まった何人かは亡くなっていたようだった。何とか社務所内に入り、数時間を過ごした。噴石が屋根に落ち、何回も「バキン、バキン」と大きな音を立てる。意識のない若い女性や「背中が痛い」とうめく青年を運び入れたが、仕方がなくその場に残して下山した。小野田さんは噴石が頭に当たり、出血したが命に別条はなかった。 山頂に続く尾根「八丁ダルミ」。愛知県刈谷市の野村正則さん(61)はおいの亮太さん=当時(19)=と写真を撮影していた際に噴火に遭った。亮太さんを収めた写真にはもくもくと立ち上る噴煙も写っている。「やばいんじゃねえの」と言って逃げ出した亮太さんを、野村さんは迫る火砕流にうずくまっている間に見失った。亮太さんの行方は今も分かっていない。