CLO(物流統括管理者)とはどんな役職? 荷主のほぼ5割が対象、2026年に選任義務化
新物効法で課される「CLOの3つの職務」
新物効法において、CLOに課される職務も挙げておこう。 ・トラックドライバーの負荷低減と輸送される物資のトラックへの過度の集中を是正するための事業運営方針の作成と事業管理体制の整備 ・所属企業における、1.の取組計画を記した「中長期的な計画」の作成と、その進捗状況等の定期報告 ・1.を実現するための、その他全般的な業務 物効法におけるCLOは、物効法で義務付けられる各種報告の連絡・調整役かつ責任者としての役割が目に付く。 そのため、「行政処分を受けたら詰め腹を切らされる可能性もあるCLOというババを、誰が引かされるのだろうか…」と懸念する声も聞こえ始めている。
ポイント3:「劣化版CLO」大量発生の可能性
そもそも、CLOは高度物流人材育成の文脈で、高度物流人材が目指すべき最終的なキャリアパスの1つとして挙げられていた。 育成が難しく、数も少ない高度物流人材という資質に加え、CLOには役員としての資質も求められる。 はっきりと言えば、そんな稀有な人材を世の中の半分程度の荷主らに求めるのは、無理がある。 東京大学大学院で高度物流人材の育成講座を主催し、国土交通省の物流関係研究会に数多く参画、あるいは渋滞学の権威としてイグノーベル賞も受賞した東京大学 西成 活裕教授は、CLO問題についてこのようにコメントする。 「最終的に『経営の数字(ROA(Return On Asset、総資産利益率)など)』までを考えて行動していることが求められます。物流統括管理者にはそこまで念頭においてほしいです。そして自社だけでなくサプライチェーン全体まで考えているのがCSCOと思っています。私はCLOではなくCSCOを目指すべきだと考えていますが、これは会社によって違う可能性もあります」 CSCOは、「Chief Supply Chain Officer」の頭文字を取ったものであり、「最高サプライチェーン責任者」などと和訳される。 ここで西成教授が指摘するCSCOは、自社内に閉じたサプライチェーンだけでなく、2次サプライヤー、3次サプライヤー、あるいは自社製品の廃棄やリサイクルの概念も包括したサプライチェーンを指しているのだろう。 たとえば、トヨタ自動車を世界最大の自動車メーカーにまで成長・拡大させたジャスト・イン・タイム(トヨタ生産方式の1つ)は、トヨタにとっては最適解だったかもしれないが、その影で、多くのサプライヤーに犠牲を強いてきた。 ジャスト・イン・タイムとは、製造のタイミングに合わせて必要な部品を、必要な量だけ調達する方式。トヨタにとっては部品在庫を圧縮し、経営健全化を実現する武器だった。 しかしトヨタに部品を納品するサプライヤーらは、ジャスト・イン・タイムに応えるため、大量の在庫を抱えざるを得ず、経営に悪影響が生じていた。 ジャスト・イン・タイムに対する批判は、運送業界からも挙がっていた。ジャスト・イン・タイムによる時間指定配送に応えるために運送事業者らは非効率で売上も低い運行を強いられたからである。 こういった、ビジネスエコシステム(生態系)の頂点捕食者(あるいはその取り巻き企業)だけがエゴをむき出しにして利を得るようなサプライチェーンは、むしろ社会にとって害悪である。 西成教授の指摘するCSSOの役割とは、ビジネスエコシステムに参加するすべての企業にとってのサプライチェーン最適化であり、ひいては日本社会が直面する物流クライシスの解決に貢献し得ることを指すのであろう。 西成教授の指摘は、とても示唆的だ。このまま、物効法によるCLO選任義務化が進めば、本来求められていた、あるいは欧米の先駆的なCLOとは似ても似つかぬ劣化版CLOが大量に誕生する可能性も出てきた。 結局、劣化版CLOとは別に、物流クライシスに資する存在として、一部の企業、一部の人材はCSCOとして活躍することになろう。