大崎博子 団地で1人で暮らし。母は91歳で見事に旅立った。Xフォロワー22万人、前夜の「おやすみなさいませ」の投稿を最後に
◆私の心にも変化が訪れた 葬儀を終えたあと、遺品整理もあり、私はしばらく日本に残ることにしました。そして、母が親しくしていた方に改めて連絡を取ってお会いしたんです。麻雀の会にもご挨拶に行きましたし、太極拳の会にも参加しました。それが母への供養になるような気がして。 母の暮らしたこの部屋で、そんなふうに毎日を過ごしているうち、私の心にも変化が訪れました。ちょうど末の子の大学進学が決まり、子どもたちは手が離れたのだから、日本にまた拠点を持ってもいいんじゃないか、という気持ちになったのです。 ひとつには、遺品を整理するうち、すべて処分するのは忍びなくなってしまった、ということがあります。日本に荷物を置く部屋がほしくて賃貸物件を借りようとしたのですが、定職のない私では借りられないことが判明。かといって、この団地の契約者は母なので、まもなく出なければなりません。 ならば、日本で仕事を探そう。そう思いつき家族に相談したところ、みんなが「マミー、それいいと思う!」と大賛成してくれました。 長女は来春、研修医として日本の大学病院で働くことが決まっていますし、次男も来年は1年間、日本の大学で学ぶようですので、家族にとってもこちらに拠点があるとなにかと便利、という事情もありました。本当にこういうことってタイミングですよね。 ちょうど私に合いそうな、英語が社内共通語の会社の人材募集広告を見つけ、面接を受けたところ、雇っていただけることになりました。まだ働きはじめたばかりですが、とにかく楽しい! すべての時間が自分のためにある状況は久しぶりだし、ワーキングホリデーみたいで毎日ワクワクして過ごしています。(笑) 実はこの秋、母はレシピ本を刊行予定でした。すでに撮影が半分ほど進んでいたこともあり、これは私が引き継ぐことに。出版社の方など、これまでご縁がなかった世界の人と一緒に仕事ができるのも楽しみです。 オープンマインドな性格の母は、年齢を言い訳にせず、興味が湧いたらなんでもやってみる人で、60代ではじめた手話もそのひとつでした。 真面目で、すべてに対して一所懸命で、昔から口癖は「三日坊主でもいいから、とりあえず全部やってみるのがいいわよ。それで自分に合わなければやめればいいんだから」でした。 そんな母と私はまったく性格が違う、と思ってきましたが、今回の自分の行動を俯瞰すると、なんだかちょっと似たところもあったのかな、と笑ってしまいますね。 これは、母が用意してくれた新しい扉なのでしょう。もちろん、もう母に会えないことは寂しい。でも私が楽しく生きることが、母への何よりの供養だと思うんです。 実は麹町に職場を選んだ決め手のひとつが、母の眠る納骨先がよく見えることでした。今、毎日会いに行っています。新しい扉を開けた私を、母が温かく見守ってくれているような気がしています。 (構成=篠藤ゆり、撮影=大河内禎)
大崎夕湖,大崎博子
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