あまり報道されない重傷事故の「その後」 被害者の母親と、足切断の男性が語った苦難
なぜか加害者にされる
車を運転していたのは25歳の男子大学生で、事故から5日後に両親とともに集中治療室まで見舞いに来た。その2日後、今度は大学生が加入している保険会社の担当者が病院を訪れた。まだベッドの上で輸血の管につながれ、起き上がることのできない水野さんに、「急に飛び出したバイクのほうに、少なくとも65%の過失がある」と告げたという。 「何を根拠にそんなでたらめが言えるのか、怒りに震えました。そもそも警察の事情聴取も行われていない段階で、一方的に過失割合を突きつけてくる保険会社のやり方には心底疑問を感じました」
警察に早く事情を話したかったが、入院中の8カ月間は何の連絡もなかった。不安になった水野さんは退院後、慣れない義足をつけて警察署に行き、相手の車が信号無視をしてバイクに追突したこと、スタンド店員が目撃していたことなどを説明した。 事故で仕事を失い、生活は厳しかったが、理不尽な過失割合を受け入れて示談するわけにはいかなかった。 「警察の捜査結果が出れば、事実が明らかになるはず……」。水野さんはそう信じて、保険会社から振り込まれるひと月10万円の仮払金で毎日を過ごしながら、警察に期待を寄せた。
でたらめな調書に愕然
しかし、事故から2年半たってようやく検察に書類送致されたものの、相手の運転手は不起訴になった。 納得できなかった水野さんは、警察が作成した実況見分調書等の一部を検察庁で初めて閲覧して愕然とした。調書にはバイクが飛び出したかのように書かれ、スタンド店員の証言も取られていない。さらに現場見取り図には、相手の運転手が赤信号を無視した交差点すら記載されていなかった。 「これでは相手が起訴されないのも当然でした。いっきに気力が失せてしまいました」 しかしその後、あることに気づいた。警察が撮っていた2枚のバイク写真を拡大すると、右側のマフラーが大きく上に曲がっているのがわかった。 「相手の車が真後ろからバイクに追突したことを裏づける痕跡でした。これに気づいたとき、徹底的に闘う決心をしました」