あまり報道されない重傷事故の「その後」 被害者の母親と、足切断の男性が語った苦難
決めるのは保険会社ではなく裁判所
重傷事故の被害者は将来にわたって、車椅子、義足、介護用ベッド、痰吸引器、酸素飽和度測定器などが必要になることがある。それらを想定したうえで、必要な備品の価格と耐用年数を証拠化し、「今後何年間にわたり、何回の買い替えが必要なので賠償してほしい」と具体的に主張することも大切だ。 青野弁護士は、保険会社との交渉についてこう語る。 「真由さんや水野さんのケースを見てもわかる通り、保険会社はまず否定的な回答をしてくることがあります。でも、その回答は『(とりあえず、今は)払えません』という意味で、最終結論ではありません。保険会社から『補償の対象外です』と言われると、『そういうものなのか……』と思って領収書などの大切な資料を捨ててしまう被害者もいます。しかし、保険会社が否定しても、裁判所が賠償の対象として認めてくれることは珍しくありません。何が賠償の対象かを決めるのは最終的には『裁判所』であって、『保険会社』ではないのです。そのことをぜひ覚えておいてください」
29歳で事故に遭った水野さんは、今年56歳になった。ふと気づけば、人生の半分を中途障害者として生きてきたことになる。義足の耐用年数は3年から5年。これまでに作り替えた義足は6本にのぼる。 「死亡事故の悲しみと比較することはできませんが、交通事故で重傷を負った被害者の多くが、その瞬間から予期せず始まるつらい現実に苦しみ、その後の人生を障害とともに生きていることも知っていただきたいと思います」
柳原三佳(やなぎはら・みか) 1963年京都市生まれ。バイク誌の編集記者を経てフリーに。交通事故や司法問題等を取材し各誌に執筆。『週刊朝日』で連載した告発ルポは自賠責の査定制度改正につながった。著書に『自動車保険の落とし穴』(朝日新書)、『示談交渉人裏ファイル』(角川書店)、歴史小説『開成を作った男、佐野鼎』(講談社)、『私は虐待していない 検証・揺さぶられっ子症候群』(講談社)など。ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイト (mika-y.com)