「ちょっと悪い人」は突然死のリスクがある…健康診断の結果が良くない人が絶対やってはいけないこと
■「階段を使うだけ」でも血液の中身は変わる 血管の状態が大切だとはいえ、血管が痛いと感じることはないので、なかなか危機感を持てないのが現実です。そもそも、高血圧・高血糖・高コレステロールはなぜ悪いのでしょうか。血管が傷むメカニズムを説明しましょう。 高血圧の場合、血流による圧力で血管の壁に負担がかかります。ちなみに、150mmHgの血圧を水圧に換算してイメージすると、約2メートルの噴水と同じです。そんな大きな力で押されると、血管内皮細胞に大きな負担がかかり、繊維化して動脈硬化につながります。 先にも少し触れましたが、高血糖が続くと、血管の壁にベタベタと張り付いた糖の周辺に白血球が集まり炎症を起こして、血管が傷ついてしまいます。 LDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、余分なコレステロールが血管内に取り込まれてプラークと呼ばれるコブができ、血管が詰まりやすくなります。一度できたプラークを薬で消すことはできません。 コレステロールはさまざまなホルモンや全身の細胞膜の材料などとして使われる、生命活動に必須のものですが、年齢とともに必要な量は減ってきます。体の細胞が入れ替わるスピードが遅くなり、細胞膜を頻繁につくる必要もなくなるからです。余って酸化したコレステロールはいわば老廃物ですから、血管を掃除する役割を持つマクロファージによって血管内に取り込まれるのです。なお、痩せれば解決すると思っている人も多いのですが、実は肥満とコレステロールに直接の関係はありません。対策として有効なのは運動やサプリではなく、コレステロールを多く含む小魚や牛乳、卵などの食品をとりすぎないことです。 血糖やコレステロールなどのリスク因子を放置した「結果」、影響が出やすいのが脳・心臓・腎臓です。とくに、太い動脈と毛細血管の間をつないでいる細動脈に問題が起きてきます。臓器たちがいつも通りの活動を続けられるように、あなたがいつも通りの血液を保ってあげることが大事なのです。 血液の中身は、ちょっとした生活習慣の変化に伴ってすぐに変わります。健康診断の結果が悪い人と面談をしてみると、「通っているランチのお店を変えた」「職場のフロアが3階から6階に変わって階段を使わなくなった」といったことが悪化の原因であることも少なくありません。逆に、それくらいのちょっとした変化をもとに戻せば数値は改善する可能性が高いのです。 脂質異常や高血糖を指摘された場合、食生活の見直しや運動習慣の定着に取り組めば、3カ月程度で数値を改善することは可能です。コレステロール値ならもっと早く、1カ月程度で変化するかもしれません。 健康診断の結果を「怖い事実」として受け止めるのではなく、血管の状態を改善するチャンスだととらえてください。20年後も行きたいところに行って、食べたいものを食べるために、健康診断の結果を活用していきましょう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 野口 緑(のぐち・みどり) 大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授 1986年、兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から総務局職員部係長として、メタボに着目した独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。環境市民局課長、市民協働局部長、企画財政局部長を歴任し2020年退職。2013年から大阪大学大学院招聘准教授、現在は大阪大学の特任准教授として、生活習慣病予防、保健指導介入の効果や手法の研究を行う。医学博士。著書に『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』(日経BP)。 ----------
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授 野口 緑 構成=花輪えみ