「若者のコメ離れ」は大間違い…最もコメを食べなくなったのは「60代以上の高齢者」だった “年間10万トン”ペースでコメの需要が下落する理由とは
2024年夏、コメが全国的に足りないのに農水省が頑として放出しないと報道で非難されたのは記憶に新しい。実はその裏で、同省は加工業者を対象に、ちょうど切り替えの時期を迎えていた政府備蓄米を1万トン分放出すると7月末に発表していた。政府備蓄米を主食用米として放出すれば、米価が下落し、コメ農家の“手取り”が減ることになる。しかし、コメの価格に影響しない「ふるい下米」が不足しているとなれば、容赦無く備蓄米を放出する。 その後、惣菜メーカーでつくる業界団体の一般社団法人日本惣菜協会が政府備蓄米の放出を要請した。これに対して農水省は、緊急時でないと出せないと突っぱねたという。不足の度合いがいくら深刻でも、主食用としては一粒も放出しない。これは農水行政における政府備蓄米の“不都合な真実”を言い表している。
新潟県産コシヒカリの真贋問題
また、今回のコメ不足の一因として暑さに弱いコシヒカリが全国で最も多く作付けされていることが挙げられる。23年の猛暑により、新潟県産コシヒカリの一等米の比率が過去最低の4.7%を記録した。日本は「あきたこまち」などコシヒカリの暑さに弱い性質を継いだ近縁種も多く、コシヒカリとその近縁種で全国の作付面積のおよそ8割を占める。 日本の田んぼは「コシヒカリ」に席巻されているのである。 実はそれとは別に、コシヒカリには昔から真贋をめぐる問題がある。 ブランド力が高いのが、新潟県産コシヒカリ(新潟コシ)。全国のスーパーの棚に並び、最も人口に膾炙している銘柄米だ。しかし、その生産量に対して流通量が多いのは、米業界の関係者の間で有名な話である。作っている量に比べ、販売量の方が多い。つまり、産地が新潟県でないコシヒカリが「新潟コシ」として販売されているのである。他の地域のコシヒカリよりも新潟コシの方がよりニーズがあるし、高値で売れるということだろう。 「今は少なくなった方だと思います」と青柳氏。 「1990年代末に千葉県内のある稲作地帯を訪れたら、ここのコメは新潟コシに化けますと正直に言っていましたからね」 と振り返る。 現在、新潟県で栽培されるコシヒカリは、他県で栽培されている従来のコシヒカリとは異なる。コシヒカリは、葉や穂が枯れて収量が落ちる「いもち病」に弱い。そこで新潟県がこの病気に耐性を持たせた品種群を開発した。農薬を減らした栽培のできる「コシヒカリBL」として、2005年に従来のコシヒカリから作付けを切り替えた。 コシヒカリBLはコシヒカリと異なる品種のため、コシヒカリと認めないと主張する人もいる。それはさておき、BLの登場は、農薬を減らせる以外のメリットを新潟県にもたらした。DNA鑑定による真贋の確認だ。 「新潟県は、遺伝子解析によって、新潟県産コシヒカリかどうか特定できるようになったわけです。定期的にサンプル調査をして、産地偽装があると通報しています」(青柳氏) 県庁の通報により、米穀卸といった流通業者が不正競争防止法違反で逮捕される事態が起きている。コシヒカリBLが登場した当初、反対論者の中には産地偽装がバレるとこまる人々も紛れ込んでいたとされる。 かように日本のコメ業界には多くの問題が横たわっており、それらがコメ不足を招く原因となっているのである。 絶対王者として君臨するコシヒカリがもたらす影響の大きさについては、「令和のコメ騒動の真因は『コシヒカリ系統への偏り』『減反政策の失敗』…停滞するコメ行政を突破する最先端の取組みとは」をご覧いただきたい。 山口亮子・ジャーナリスト 愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリーに。著書に『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)、共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』などがある。雑誌や広告の企画編集やコンサルティングなどを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。 デイリー新潮編集部
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