市村正親「役者にとってのダメ出しは栄養と水。人の分ももらっちゃう。2人の息子は〈パパのやった役を全部やりたい!〉と」
舞台、映画、ドラマにと幅広く活躍中のミュージカル俳優・市村正親さん。私生活では2人の息子の父親でもある市村さんが、日々感じていることや思い出を綴る、『婦人公論』の新連載「市村正親のライフ・イズ・ビューティフル!」。第二回は「脱力、ダメ出し、マグマヨガ」です。(構成=大内弓子 撮影=小林ばく) 【写真】出番前、貴族の衣装でチェアーポーズ? * * * * * * * ◆ ◆必死でやって得られる真理 ミュージカル『モーツァルト!』の公演が続いています。この作品の上演は今回で8度目。2002年の初演から出ているのは、モーツァルトの父レオポルトを演じている僕と、コロレド大司教役の山口祐一郎だけになりました。 僕たちはこの役については22年間のキャリアがあるわけです。それに対して、モーツァルト役のキャストのひとり古川雄大くんは3度目6年のキャリアで、もうひとりの京本大我くんにいたっては今回が初挑戦。 とにかく必死でやっていて、その必死にもがいている姿が実にモーツァルトっぽくていいなと思いながら見ています。 実は、そうして目いっぱい必死でやることでしか得られない真理もあるんです。それは僕も、24年3~4月に上演したミュージカル『スウィーニー・トッド』の舞台に立つことで、改めて気づかされたのでした。 『スウィーニー・トッド』はスティーヴン・ソンドハイムの楽曲が実に難しく、07年の初出演時にはヒイヒイ言いながら歌って、舞台の終盤にはもう汗まみれになっていたんです。 それが5度目となる今回は、最後まで一滴も汗をかいてない! びっくり! 前回まではそれだけ体中に力が入っていた、ってことなんだよね。
これぞまさしく「熱演と言われる役者の芸のなさ」。これは俳優の加藤健一くんがどこからか引用していて、いい言葉だなと思って覚えているの。いい芝居は、汗みどろになって100%全開でガンガンやるものじゃない。無駄な力が抜けて、お客さんに想像する余地を与えられるくらいのほうが、感動を生むと思うんだ。 ただしそれに気づけるのは、必死で取り組む経験があってこそ。本番でいい具合に力を抜くためには、稽古で200%の力を出してなきゃダメ。そんなことに75歳の僕がまだ気づけるっていうのが、芝居の醍醐味だよね。 僕、稽古で〈ダメ出し〉されるのが大好きなの。劇団四季にいた頃は、いつも演出家の浅利(慶太)さんの目の前、唾が飛んでくるくらいのところに陣取って話を聞いてた。浅利さんも後ろのほうに座っている面々に、「後ろにいる奴、仕事欲しくないんだな」と言ってたけど、そういうことなんだよね。 ダメ出しは役者をより伸ばすためのもの。あるから育つ。役者にとって栄養と水なんです。僕なんて、自分以外の人へのダメ出しも全部もらっていましたよ。タダなんだから、丸儲けでしょ。(笑) 僕にたくさんダメをくれていた浅利さんも、四季を出てからお世話になった蜷川(幸雄)さんも亡くなって、寂しいね。いつだか蜷川さんのドキュメンタリー番組を観ていたら、藤原竜也くんがいっぱいダメを出されていて。それを見ながら、「あ、それ、僕にも言えることだ。これもそう! なるほどな……」と、画面から勝手にダメを頂戴しました。(笑)
【関連記事】
- 草笛光子×市村正親「歌と踊りと芝居を結婚させるのがミュージカル。その3つがちゃんとできる人とご一緒すると、何度も共演したような気がしちゃう」
- 江原啓之×丸山敬太 卒業後は別々の道へ。「26歳の頃は、神主と個人カウンセリングを」「ドリカムの衣装を26歳で手掛けた」
- 江原啓之×丸山敬太 初対面から45年「敬太」「プーヤン」と呼び合う仲。高校の同級生、青春時代を語る
- 内野聖陽「比較的怒りっぽい性格の僕は、怒りのない人にはあまり共感できない。上田監督とのご縁で作り上げた『アングリースクワッド』」
- 草笛光子×市村正親「《年配のご婦人とヨガデート》の相手は…。僕らには同じ血が流れてる。いまの僕たちにできる、若者とは違う舞台の取り組み方で」