天井や塀は「壊れる」 地震の安全対策に必要な前提と考え方
6月18日で大阪北部地震から1年が経ちます。この地震では、小学校のブロック塀が倒壊して登校中の児童が下敷きとなり死亡するという悲惨な事故が発生しました。地震などの自然災害では、普段私たちの生活を支えている建物などが牙をむき、逆に私たちに襲いかかってくることが起こり得ます。このような事故が起こるたびに、人工構築物の安全性が課題に上げられますが、死亡事故はなぜ防ぐことができなかったのでしょうか? 大阪北部地震と東日本大震災での出来事を振り返りながら、安全な社会構築のためには何が必要なのか、について考えていきます。
東日本大震災で崩落した天井
大阪でのブロック塀倒壊事故のニュースを聞いたとき、私がまっさきに思い出したのは、2011(平成23)年の東日本大震災の際に日本科学未来館で起きた天井崩落のことでした。3月11日午後2時46分に発生したこの地震で、未来館のある東京・お台場は震度5強の揺れに見舞われました。当時、館内には来館者と職員合わせて1000人ほどいましたが、全員が速やかに館外へ避難することができました。しかしその後の余震で、エントランスホールの天井が、葉っぱ型のオブジェとともに高さ26メートルから落下。厚さ2センチの石膏ボードが粉々になって床面に散乱しました。この天井落下が避難完了前に起きていたらと思うと、本当に肝が冷える出来事でした。 地震から2日後、未来館では職員が館内の被害調査をし、復旧計画を検討し始めていました。そのとき、川口健一先生(東京大学生産技術研究所教授)から、毛利衛館長に電話が入り、「天井を復旧させないで下さい」というメッセージが伝えられました。 落下した未来館の天井は「吊り天井」と呼ばれるものでした。公共施設だけでなく、マンションやオフィスビルなどにもよく使われているごく一般的な天井です。建物の構造体(屋根や梁)から下に棒をぶら下げて、その先端に天井板を水平に固定するという構造になっていて、実は揺れに対しては大変ぜい弱で、落ちるべくして落ちたものでした。 吊り天井の工法は全国あらゆる施設で使われていて、東日本大震災では未来館以外でも、天井崩落が多くの文化施設や体育館、プール、駅や空港、商業施設などで発生しました。そして、天井崩落による死者・重症被害者の数は、全国で少なくとも6人に上りました(参照1)。 川口先生は「震災前と同じ吊り天井で復旧したら、事故が繰り返されてしまう。たとえ落ちても、大事には至らない天井に張り替えるべきだ」と未来館に強く助言しました。