天井や塀は「壊れる」 地震の安全対策に必要な前提と考え方
「起きても大事に至らない」ための対策
川口先生が訴えたのは、「フェイルセーフ」(fail-safe)の考えに基づいたものです。 どんなに対策を尽くしても、どんなに皆が気を配っていても、事故の発生を完全に食い止めることはできません。「事故の発生確率をゼロにすることはどうしてもできない」ということを前提に、たとえ事故が起きても大事に至らないような状態にしておくことが、安全設計の一つの重要な考え方として知られています(参照2)。 そもそも天井の主な機能とは、配管や電線などを隠して見栄えをよくするというもので、もし必要がないのであれば、天井をつけないことが最も確実に安全を確保する方法となります。実際、東日本大震災で天井が崩落した茨城空港は、震災後に天井を撤去しました。しかし最新の科学や文化を発信する施設である未来館には、美しい空間を作り出すための天井がやはり必要です。そんな私たちに川口先生が教えてくれたのが、万が一落ちてもケガをしない「膜天井」でした。
震災前の天井に使われていたのは、1平方メートルあたり重さ約15キロもする石膏ボードでしたが、それを軽くて(1平方メートルあたり0.38キロ)柔らかい(厚さ0.28ミリの塩ビ樹脂コーティングのガラスクロス)素材を採用し、膜天井に張り替えました。 この未来館の「膜天井」という選択については、川口先生とともに記者説明会(参照3)を開き、いくつかの記事でも詳細にリポートしました(参照4、5)。 国も、天井の安全性についての問題を認識し、2014(平成26)年4月に建築基準法を改正しました。具体的には、高さ6メートル以上、面積200平方メートル以上、重さが1平方メートルあたり2キロ以上の吊り天井を「特定天井」(脱落によって重大な危害を生ずる恐れがある天井)として新しく規定し、特定天井にあたるものには、定められた耐震補強を行うことが義務付けられました。特に学校施設に対しては、高さが6メートル以上であれば面積に関わらず、あるいは広さが200平方メートル以上であれば高さに関わらず、落下防止対策を施すように文部科学省から通達がありました(参照6)。