天井や塀は「壊れる」 地震の安全対策に必要な前提と考え方
川口先生は「膜天井がものすごい勢いで増えている。震災をきっかけにして、ある面では安全性が高まったといえる。しかし、あらゆる立場の人々が安全を確保することに対する『責任』をしっかりと考え直す必要がある」と指摘します。さらに大事なことは、それぞれの立場の人々の責任の範囲は、決してあらかじめ定まっているものではない、とも述べ、より強い安全への意識がそれぞれに必要だと説きます。「より安全な状態にするためにはどうすればよいのか、その本質を見極める努力をしつづけることが大事。基準やガイドラインというものを順守すれば、責任を果たしたことになっていると考えるのは間違っている」 大学の講義で、川口先生がいつも学生に伝えている言葉があるといいます。それは次の言葉です。「自分の守備範囲を、自ら限定してしまうような技術者になってはいけない。技術者である前に、科学者であれ。ある既定路線の中だけに自らの発想を縛りつける専門家になってはいけない。専門家である前に、人であれ」 私たちの社会の中で起こった事故に対しては、社会が責任を負っていると考えるべきだと私は思います。事故や災害から教訓を学び取り、より安全な社会をつくっていくために、社会の中における自分の「責任」とは何か? 一人ひとりがしっかりと考え、その責任を果たしていくことが、強く求められているのではないでしょうか。
《参照》
(1)国土交通省2013年8月1日報道発表「東日本大震災における非構造部材等の被害調査結果について」 (2)向殿政男著「入門テキスト 安全学」など (3)日本科学未来館×東京大学生産技術研究所「安全性が高く安心できる新しい発想の天井」 (4)日本科学未来館「新しい発想の天井に作り替え作業中です」 (5)Vol.3 東日本大震災と未来館からの情報発信(2012年3月発行) P51「エントランスホールの膜天井に込めた『メッセージ』の発信活動」 (6)文部科学省「学校施設における天井等落下防止対策の一層の推進について(通知)」(2013年8月7日 ◎日本科学未来館 科学コミュニケーション専門主任 池辺靖(いけべ・やすし) 1966年生まれ。宇宙物理学の分野で日本、ドイツ、アメリカで研究に従事後、2004年より未来館にて、さまざまな科学コミュニケーション活動に取り組んでいる