曲がる太陽電池:中国と先陣争いで見切り発車へ、便利でも性能やコストに課題
持田 譲二(ニッポンドットコム)
温室効果ガスの削減に向け、「曲がる太陽電池」の将来性が期待される中、日本企業は2025年以降、順次商品化に踏み切る。だが、技術的にはまだ開発途上なのに加え、量産体制に入らないとコストを下げられないといった課題を残している。中国など海外勢との先陣争いが予想されており、見切り発車せざるを得ないのが実情だ。
発電効率
「曲がる太陽電池」(ペロブスカイト太陽電池)の基となる技術は、日本の科学者たちが開発した。さらに主な発電素材として使われるヨウ素は国産で賄えるし、日本は優れた生産技術も持っている。政府が産業政策として、研究開発補助金を投入してでも育成したい理由はここにある。 ただ、商品販売を本格軌道に乗せるには、超えなければならないハードルがいくつか残っている。その一つが、光エネルギーを使って、どの程度の電気を得られるかという「発電(変換)効率」だ。国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)で有機系太陽電池の研究チームを率いる村上拓郎氏はこう説明する。
「太陽電池は小さいほど電気を取り出す効率が良くなる。学術論文などでは太陽電池を数ミリ四方の小さな正方形にしているので、『曲がる太陽電池』の発電効率24~25%という高い値が報告されている。しかし、商品化のため面積を大きくすればするほど、電気抵抗が増したり、材料内部に穴ができたりするので、発電効率は落ちてしまう」 実際、曲がる太陽電池の発電効率は、積水化学工業が30センチ四方の大きさで最大15%、東芝は703平方センチで同16.6%にとどまる。産総研は「現状ではペロブスカイト太陽電池の発電効率は既存のシリコン太陽電池よりも低い」としており、将来の課題だ。
湿気との戦い
「曲がる太陽電池」はまた、極端に湿気に弱い。保護フィルムが付いていない状態で発電層を指でつまんだり、息を吹きかけたりすると、すぐに変色して使えなくなるという。 湿気を遮断するには、発電層を保護するバリアフィルムの品質が問われる。産総研の村上氏は、「意外に思うかもしれないが、例えばペットボトルを作るPET樹脂フィルム1平方メートルで数十グラム程度の水が1日で通過してしまう。『曲がる太陽電池』に使おうとしたら、水が通る量を10万分の1まで少なくしないといけない」と話す。 こうした特殊なフィルムは「最大のコスト高要因であり、いかに安くするかを各社が競っている」(東芝エネルギーシステムズのペロブスカイト太陽電池開発グループ主務、淺谷剛氏)のが実情だ。さらにカバーのフィルムを貼り付ける接着剤の外側のわずかな隙間からも湿気が忍び込んでくる。積水化学は、同社独自の「封止」(ふうし)技術を活かして水分侵入を防ぐ。 太陽電池は直射日光や雨、風といった過酷な自然環境にさらされる。ガラスケースに覆われた既存のシリコン型の耐久期間は25年なのに対し、「曲がる太陽電池」は現状では10年。積水化学は「来年にも20年を目指す」としている。