曲がる太陽電池:中国と先陣争いで見切り発車へ、便利でも性能やコストに課題
シリコン太陽電池のトラウマ
技術的には開発途上でも積水化学は2025年に、東芝は2025~30年度の早いうちに新商品の発売に踏み切る。脱炭素を掲げる岸田文雄首相が、実用化のめどを「2025年」と表明したことが弾みになっている。 それ以上に商品化を急ぐ最大の理由は、海外のライバル企業との先陣争いだ。中国の大正微納科技が23年、大型生産ライン構築に動き出したほか、英オックスフォード大学のベンチャー企業は25年に大量生産を計画。海外勢は必ずしも競合するような商品を出すとは限らないが、日本企業にとって、完璧な商品ができるまで発売を控えるような時間の猶予はない。 一番乗りを果たしたとしても、その後は過酷な競争が待ち受けている。日本はかつてシリコン太陽電池で苦杯をなめた経験がある。2000~07年まで、国際市場では日本が世界1の座にあり、シェアが一時50%に達したこともあった。ところが、08年以降は安い中国製品に席巻され、今では日本国内も含めてほとんどが中国製だ。 日本企業は新型太陽電池でいくつかの優れた技術を持っているが、「シリコン太陽電池と同じことが起きないようにするには、従来とは異なり、国から量産化に向けた支援を強化してもらい、品質とコストの両面で勝たないといけない」と、積水化学PVプロジェクトヘッドの森田健晴氏は強調する。
経営の論理と政府の思惑
「曲がる太陽電池」は発電素材そのものが安価でも、バリアフィルムなど周辺素材が高価な上、生産当初は設備投資の負担が重く、コストがかさむ。また、耐久性や発電効率も開発途上であり、既存のシリコン太陽電池と同じ土俵で戦おうとすると、価格競争から赤字販売を強いられる恐れがある。 各社は「曲がる太陽電池」について、シリコン太陽電池を設置できないようなところで使える「利便性が売り」だとし、「シリコンとは違う市場を目指す」(東芝エネルギーシステムズの次世代太陽電池事業戦略グループ長、櫻井雄介氏)。各社は当面、コストに見合った価格で買ってもらえるように、比較的ニッチな市場を視野に入れているようだ。ある程度、需要が拡大し量産体制に入れば、コスト削減もできると踏んでいる。 一方、このような「すみ分け」という経営の論理に対し、「政府は黙っていない」と、ある関係者は打ち明ける。政府は2050年の脱炭素に向けて、再生可能エネルギーを「主力電源として最大限の導入」(エネルギー基本計画)を目指しており、新型太陽電池についても部分的にではなく、もっと広範に普及させたいと強調する。原材料のヨウ素も含めてほぼ国産であり、エネルギー安全保障の観点からも重視されている。 「政府の言う通りにしたら、初期段階では採算が取れないような分野にも『曲がる太陽電池』を投入することになりかねない。単純に実現しようとすると赤字に陥る」と、この関係者は懸念。業界やユーザーの自治体は政府に対し、販売先を広げるなら、補助金を含めた国の支援が欠かせないと訴えていた。 時事通信の報道によると、経済産業省は2025年度予算の概算要求で、ペロブスカイト太陽電池(曲がる太陽電池)など革新的な脱炭素に寄与する製品の国内供給網構築に2555億円を求める方針だ。