世界前哨戦の決まった村田を変身させたファンの勘違い
ロンドン五輪金メダリストで、WBC世界ミドル級8位の村田諒太(29歳、帝拳)がプロ転向7戦目で初の世界ランカーとなるWBO世界14位のダグラス・ダミアオ・アタイデ(24歳、ブラジル)と5月1日に大田区総合体育館で対戦することが9日、都内のホテルで発表された。 同日のメインカードでは、WBC世界Sフェザー級王者、三浦隆司(30歳、帝拳)が同級8位で元IBF世界フェザー級王者であるビリー・ディブ(29歳、豪州)とのV4戦に臨む。また元WBC世界フライ級王者の八重樫東(32歳、大橋)の再起戦もアンダーカードに組まれた。ついに世界ベルト獲得の本格ロードへと突入する金メダリストは「今度は倒しにいく。自分の根性を試したい」と決意を語った。
あのひとことや、あの出来事があったから、と単純に何かへと結びつけるのはスポーツジャーナリズムの悪いところだが、筆者は幸いにして村田のこの試合へのモチベーションを決定的にする場面に立ち会った。筆者が、ワールドスポーツの藤原俊志トレーナーと一緒に立ち上げたボクシングトークイベントの「深くて緩いボクシングナイト」に村田にゲスト出演してもらった際、村田の大ファンという未成年の娘さんを引率してきた母親から、こんな質問というか、お願いが飛んだ。 「高いチケットを買って娘に付き合いましたが、この前の試合は引き分けでした。これからも娘と一緒に観にいきますが、次はノックアウトを見せて欲しいです!」 プロ6戦目となる年末のジョニー・ニックロウ戦(アメリカ)は、ガードを固めた相手を崩しきれずにワンサイドの判定勝利となったが、ボクシングのイロハも知らない観戦者からすれば、ノックアウトのなかったその試合は、引き分けに見えたのである。 村田は、ある意味、この勘違いが、ショックだったという。 「そうか、判定勝利もボクシングをあまり知らない人からすれば引き分けに見えるのか」 プロとは何か?それを問い直しもした。 オリンピックチャンピオンである村田の本当の使命は、コアなマニアだけではでない、一般の人々をボクシングのファンとして取り込むことにある。そのためにはノックアウトという最もわかりやすい形でボクシングを見せ続けることが近道になるのだが、現役の東洋王者の柴田明雄(ワタナベ)をKOで下した衝撃デビューを最後に、徐々に、荒々しさや、ミドル級という階級の持つ怖さが見えにくくなっていた。 それは村田も自覚していた。ここまではプロ転向で必要な技術を手にするための経験と割り切ってきたが、この初の世界ランカー戦からは、本来持っていた村田らしさをもう一度、呼び戻す決意だ。ましてや、この試合に勝てば、WBC、IBFに続き、WBOでもランキング入りを果たし、ついに世界挑戦が見えてくる。世界前哨戦なのだ。 「ここまでテクニックに走りすぎていた気もする。ジャブを多く使ったり、プロではダメージが怖いので、一発をもらうことに注意も払いすぎて、自分のいいところを消していたと思う。持っているストロングポイントを出したい。それは気持ち。ボクシングはスポーツだけど殴り合い。倒してやるという気持ちを出さないとボクシングの魅力は出てこないと思う。今まではキャリアを積む試合。今度は大きな試合。倒しにいく。肝試しというか、根性試し」 村田の武器は、前へ前へと押し込むプレッシャーであり、強烈な右であり、インサイドからのめりこむようなボディ攻撃でもある。だが、そういう攻撃的なスタイルを前面に出すときには、村田も敵の危険に身をさらすことになる。だから村田は「根性試し」と言うのである。