なぜ化石に残らない特徴が化石からわかるのか?生物が海から陸上へと進出した過程と「羊膜類」の出現が「石炭紀」だとわかる理由!
この2つの方法には限界がある!
以上の2つの方法から、おそらく羊膜類の起原は石炭紀だと考えられる。ただし、これらの方法には限界があることも忘れてはならない。 一つ目の方法については、踵骨や距骨の特徴、あるいは頭骨の特徴が、羊膜卵と連動しているとは限らないという問題がある。 2つ目の方法の限界については、簡略化した羊膜類の系統樹を使って説明しよう。 まず、「現生種すべての最終共通祖先」とその「最終共通祖先の子孫すべて」を含む集合を「クラウングループ」と言う。図のクラウングループとステムグループでは、爬虫類と鳥類と哺乳類と最終共通祖先Aがクラウングループを形成する。 一方、「現生種すべての最終共通祖先に至る前に分岐したすべての種」の集合を「ステムグループ」と言う。図では、初期の羊膜類(と推測される生物)と最終共通祖先Bがステムグループを形成する。 さて、現生の羊膜類の羊膜卵を調べて、構造を共有していることがわかったとしよう。それの意味するところは、クラウングループの最終共通祖先であるAが羊膜卵を持っていた、ということだけである。 もしかしたら、羊膜卵が進化したのは、BからAに至る途中だったかもしれない。そうであれば、初期の羊膜類(と推測される生物)は羊膜卵を産んでいなかった、つまり羊膜類ではなかった、ということになる。 ただし、図のクラウングループとステムグループでは、初期の羊膜類(と推測される生物)をステムグループとして位置付けたが、初期の羊膜類(と推測される生物)がクラウングループの中に含まれる可能性もある。その場合は、初期の羊膜類(と推測される生物)は羊膜類ということになり、問題はなくなる。 しかし、ある化石が、クラウングループかステムグループかを判断するのは、不可能ではないけれど、しばしば困難である。もしかしたら、永遠に真実には辿り着けないかもしれない。それでも、証拠を少しずつ積み重ねて、少しずつ真実に迫っていく。それが科学の醍醐味ではないだろうか。
更科 功(分子古生物学者)