なぜ化石に残らない特徴が化石からわかるのか?生物が海から陸上へと進出した過程と「羊膜類」の出現が「石炭紀」だとわかる理由!
超大陸パンゲアの乾燥した地域と羊膜卵の利点
折しも石炭紀からペルム紀(約2億9900万~2億5200万年前)にかけては、巨大な超大陸パンゲアが形成された時代である。乾燥した地域が広がったことは、羊膜類にとって追い風となっただろう。そうして羊膜類は、両生類を抑えて繁栄していくことになる。 ちなみに、羊膜の外側にある漿膜は、毛細血管を発達させて卵の殻の内側に沿って広がり、酸素と二酸化炭素の交換、つまり呼吸を行う。また、少し遅い段階で現れる尿膜は、排泄物を蓄えるのがおもな役割だが、呼吸も行うことが知られている。 さらに、卵の周囲には卵殻が形成される。卵殻のおもな役割は、卵を乾燥から守ることだが、そのいっぽうで呼吸ができるように小さな穴がたくさん開いている。つまり、羊膜卵は、食料庫やガス交換器、衛生設備などを完備した生命維持システムなのである。 ただし、哺乳類では漿膜が子宮に付着して胎盤となり、尿膜は胎盤を通じて母体と物質をやりとりし、卵殻は形成されない。これらは羊膜卵から二次的に変化したものと考えられるが、羊水のなかで胚が成長するという点に関しては何も変更されていない。
なぜ羊膜類の出現が石炭紀だとわかるのか
それでは、まだ羊膜卵の化石が見つかっていない石炭紀に、羊膜類が羊膜卵を産んでいたことが、どうしてわかるのだろうか。それには、2つの方法がある。 1つ目の方法は、羊膜類における羊膜卵以外の特徴に注目することだ。たとえば、羊膜類にあって両生類にない特徴として、踵骨(しょうこつ)と距骨(きょこつ)に注目するのである。 踵骨というのは、かかとの骨である。足の骨のなかでもっとも大きく、もっとも強い骨で、体重を地面に伝えている。距骨は踵骨の上にある骨で、体重を下腿から足へと伝えている。 距骨の凹面と踵骨の凸面がはまることで距骨下(きょこつか)関節を作っており、この関節のおかげで足首を内側や外側に曲げたり捻ったりすることができる。 この踵骨と距骨は羊膜類に特有なので、化石にこれらの特徴が認められれば、羊膜類だと判断するのである。つまり、羊膜卵を産んでいただろうと推測するわけだ。 また、両生類の頭骨では眼の上に上眼窩骨が複数あるが、有羊膜類ではこの上眼窩骨が縮小して、前頭骨と後眼窩骨と鱗状骨が眼の上から後方に向かって連結している。頭骨のこれらの特徴も、ある化石が羊膜類かどうかを推測するときに役に立つ特徴だ。 2つ目の方法は、現在生きている生物の情報を援用する。現生の羊膜類の羊膜卵を調べると、かなり細かいところまで構造を共有していることがわかる。したがって、羊膜卵の起原は一度だけだった可能性が非常に高い。そのため、現生生物の形態的特徴と化石の形態的特徴を使って、分岐図を作ると、石炭紀の羊膜類に辿り着くのである。