美術館の裏側を伝える展覧会「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」レポート
保存修復の専門家がいる美術館は全国でもごくわずか
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」が開催中だ。会期は7月28日まで。 本展覧会は、普段は一般の観客の目に触れることがない、いわば美術館の裏側で行われている仕事や取り組みに光を当てるものだ。 ポイントは、タイトルにもなっている「てあて」「まもり」「のこす」という3つの視点。保存修復というと、しばしば修復作業によって作品が美しさを取り戻すというビフォー・アフター的な部分に注目が集まりがちである。それはこの仕事の重要性はもちろん、修復による成果や修復家の職人技の凄さが、視覚的にもわかりやすいといった理由も大きいだろう。しかし、本展ではこうしたピンポイントの成果にとどまらず、美術館の財産である作品を未来へとつなげていくために美術館が継続的・長期的に行っている事柄の全体像を紹介する、という意欲的な企画だ。 企画は同館で保存修復を担当する橋口由依学芸員。同館で保存修復を担う専属職員ふたりのうちひとりであり、2020年から勤務している。もうひとりは2003年から同館で保存修復を担ってきた伊藤由美研究員だ。 ふたりは今回の展覧会のポスターに使われた修復室の写真にも登場していて、個人的にはこのポスターの写真とデザインに心くすぐられた。周年記念の展覧会で、人気作家の個展や大きなテーマを掲げた展覧会を開くのではなく、美術館の取り組み自体を主役に据えるというのは、見方によってはちょっぴり地味で、チャレンジングかもしれない。そんななか、こうしたポスターや、小さなジャコメッティの彫刻を修復している様子の写真など、気の利いたビジュアルに、企画の工夫が感じられる。 そもそも保存修復の専門家が専任で勤務している美術館は、全国でも数館に限られるという。1951年に日本で初めての公立美術館として鎌倉の鶴岡八幡宮内に開館した神奈川県立近代美術館も、2003年に伊藤さんが着任するまで長らく専任者が不在だった。 同館に限らず美術館における保存修復への意識が高まったのは、1995年に阪神淡路大震災が起きたことがきっかけだった。さらに2011年に発生した東日本大震災によって、より一層の防災対策が要請されるようになった。 また同館においては、1951年開館の旧鎌倉館が2016年に閉館し、作品が鎌倉別館や葉山館へと移送されたという経験も大きいだろう。