美術館の裏側を伝える展覧会「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」レポート
「まもり」
「まもり」は、保存修復における「保存」、つまり損傷を予防するための取り組みを紹介する。 たとえば高橋由一《江の島図》(1867~77)は、古く価値の高い額縁がついているが、額縁に貼り付けられた布が劣化しており、取り扱いに注意を要する。そのため、オリジナルの額物に入れて展示するのは同館のみに限定し、他館への貸出時にはもとの額縁を模して作られた貸出用額縁をつけている。本展ではオリジナル額縁がついた本作の横に、貸出用額縁も並んで展示されている。 「修復の作業だけではなくて、作品を守り残していくための環境作りに多くの時間を費やしています。修復だけじゃないんだということが、美術館で働き始めてから強く感じていることですね。作品が壊れたら直すことが大事ですが、そもそも壊さないようにすることができたらそれがいちばんです。そのための保存のあり方を、伊藤と私だけではなく学芸員みんなで考えて取り組んでいます。 1万6000点のコレクションがあるので、すべての作品のコンディションを把握して万全にしておくことは難しい。当館で展示するだけでなく、他館への貸出も多いので、そういうタイミングは作品の安全な保存方法を考えるきっかけになります。いまのままでは移送する際に破損の危険があるから安全な状態にしようとか、作品を綺麗な状態にしてからお貸し出ししよう、というように」(橋口) 昨年、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「中園孔二 ソウルメイト」に貸し出された中園孔二の絵画。もともと額縁がない作品だったが、側面にも絵具が塗られており、保護のために額縁を装着。展示される際、ほかの額縁のない作品とも馴染むような白い色の額縁になっている。 また作品だけでなく、作品の移送や収納、空気環境や光、虫からいかに作品を守るかといった資料も展示されている。
「のこす」
旧鎌倉館の庭園に設置されていた彫刻作品は、閉館にともない鎌倉別館や葉山館へと移送された。展示ではドキュメンタリー映像や資料を通して、こうした作品を「のこす」ための事例を紹介。 たとえば、旧鎌倉館の庭園で、美術館の歩みを長年に見守ってきたイサム・ノグチの《こけし》(1951)。職員によって大事に梱包され葉山に再設置される姿には、その可愛らしい表情も相まって思わずうるっとしてしまった。 現在、各地の美術館で、収蔵庫のスペースの逼迫や、保存修復といった専門職の担い手不足、作品のアーカイブ化、それらにかかる予算の問題など、様々な課題があがっている。美術館とその財産である作品や資料を、どのように次世代へと受け継ぐことができるのか。本展は、普段は一般の鑑賞者から見えづらい美術館の実直な取り組みを紹介し、そのあり方や意義、未来について改めて考えさせてくれる。ぜひ多くの人に足を運んでみてほしい。
福島夏子(編集部)