美術館の裏側を伝える展覧会「鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復」レポート
展覧会の見どころ
本展では、まず展示室入ってすぐのところに修復などの作業で使われる道具一式が展示されている。なかには医療用のメスや大工道具などもあり、修復において様々なものが使われていることがわかる。 展示室には保存修復等の作業を経た作品がずらりと並んでいるが、これがまた名品揃い。福沢一郎、古賀春江、松本竣介といった日本近代絵画を代表する画家たちから、2022年に葉山館での個展が大きな注目を集めた朝倉摂、マティスのリトグラフ、そして2015年に若くして亡くなった画家・中園孔二の絵画まで、様々な作品を見ることができる。
「てあて」
「てあて」の章では、傷ついた作品を直し、新たな損傷を防ぐために施される修復に焦点を当てて紹介する。 大きな特徴はキャプションだ。作家名やタイトル、制作年等のほかに修復歴が記載され、その作品がいつ・誰によって修復されたかが明示されている。作品によっては1回ではなく違う担当者によって2回の修復を経ているものもある。 「2003年に伊藤が当館に入るまでは、外部の専門家に修復を外注していました。館内で修復が行えるようになってからも、伊藤や私は油絵が専門なので、日本画や彫刻などは外部の方に依頼しています。今回の展覧会では、私たちだけでなく、こうした修復作業に関わった方たちのお名前を出したいと思いました」(橋口) 作品は美術館職員だけでなく、外部の専門家との協働によって直され、守られている。こうした支え合いのネットワークを提示していることにも、本展の真摯な姿勢が伺われた。 またキャプションの作品解説は、それぞれの来歴や、作品が被ったトラブルや破損、それらにどのように対処したかといった内容で興味深い。読んでいると、1点1点にまったく違った経験があり、作品ごとの要請に応じて、修復という一言では片付けられないような様々な対処法が考案され、修復が施されてきたことがわかる。 たとえば、古賀春江の大きな絵画作品《窓外の化粧》(1930)は、ワニスの塗りむらと黄化で汚れていたが、1992年の修復で洗浄されもとの色合いを取り戻した。その劇的な変化には、当時の学芸員たちが戸惑ったというエピソードがある。 松本竣介《工場》(1942)は、同館への収蔵以前に事故で真っ二つに割れるという大変なことが起きていた。応急的に接着されていたものの、2007年の修復で割れていたことがわからないまでに直された。 朝倉摂の《夫婦》(1952)は2015年に受贈され、その後裏面と木枠とのあいだにもう1枚別の作品が挟まれていることを発見。調査の結果、もう1枚の作品は《街頭に観る》(1942)という初期作であることがわかり、それぞれを個別に鑑賞できるよう仕立て直された。こうした成果は作家の調査研究にも大きく貢献するものだ。 本展では、作品の基本情報を記した作品台帳や、取り扱いの注意事項が書き込まれたチェックシートなども資料として展示され、作品管理の一端を見ることができる。