一つの頂点はハイエース? いいクルマとは何だ
無意味な速さの演出
ではメーカーがなんでそんなに踏み始めを敏感にするかと言えば「クルマの速さを演出する」ためだ。ありていに言えば、メーカーのウソ。別にダイナミックレンジを広げているわけではなく、ちょっとアクセルを踏んだだけなのにスロットルが大げさに開くプログラムを書いているだけなのだ。 踏み始めですでにワイドオープンになっているスロットルは、アクセルを床まで踏み足しても余地が大して残っていない。つまりこけおどしの割にその先ではだらしないことになるのだ。だらしないのは百歩譲るにしてもドライバーがコントロールしにくいクルマはダメなのだ。 良いクルマに乗るとただただ自然で、何も気にならない。クルマが「かまってちゃん」ではないので、いちいちうるさい思いをしなくていい。「働くクルマ」にはそんな馬鹿げた演出は絶対に行われていない。仕事の道具にそんなセッティングをしたらクレームで炎上してしまう。ハイエースもプロボックスも変な演出無しで高精細に作られているからサンダルの様に気軽に運転できるわけだ。そして当たり前のことが当たり前にできるだけなので誰もあえて「良いクルマだ」などとは言わないのだ。
ブレーキとステアリングにも
それはアクセルだけの話かと言えばそうではない。ブレーキだって同じだ。スポーツグレードにはやたらと大きなブレーキディスクが採用されていることがある。「アウトバーンで時速200キロから減速するためだ」というなら、大径ディスクもやむを得ないだろう(そんなレアなケースを優先するのはアホくさいと思う)が、日本の高速道路は時速100キロが上限だ。巨大なブレーキがなくても性能は足りる。使いもしない性能を求めて、トレードオフになるデメリットが何もないならいいが、大径ディスクは極低速でのコントロール性が悪い。クリープ速度で駐車場の発券機にぴったり寄せようと思っても思った位置で止まらない。そんな日常の使いにくさを我慢してまで、国内ではファッションに過ぎない大径ディスクはいらない。 ステアリングもおかしい。最近は可変ギアレシオのステアリングギアボックスが増えている。これまで述べてきたセオリーで言えば、可変ギアレシオを採用するなら中立付近でスローなギア比、たくさん切れば速いギア比になるべきである。まあ本来はそんなことをせずとも、遅めのギア比で可変じゃないギアでいいと思う。 例えば高速道路を制限速度で巡航中、路面の荒れや轍によって、あるいは横風などによってクルマはどうしたって蛇行しようとするものだ。その蛇行を抑え込むには、クルマに蛇行の挙動が起こった瞬間にステアリングをわずかに切って対応したい。早期発見早期治療式が一番クルマをまっすぐ走らせられるのだ。 イメージとしては自転車やバイクで停止して直立している時はほとんど足に力を入れなくていいのに似ている。わずかに重心がズレた瞬間に足に力を入れれば簡単に補正できるが、ある程度以上、傾いてからだと力が必要だ。これと基本的には同じことだ。 この時、ステアリングは外周部でミリ単位で操作するから、ステアリングのギア比はスローな方が操作しやすい。