一つの頂点はハイエース? いいクルマとは何だ
「今何かいいクルマってないですか?」とよく聞かれる。こういう仕事をしていると、なおさらそういう話になることが多いのだが、この「いいクルマ」には結構困る。 何しろクルマは道具であると同時に商品だ。機能面だけみても使い道によって評価が変わる。その上、値段も大いに関係してくるし、見栄えやイメージの様に形はないがそれだけに本人にとって強固な価値もある。どれを取っても一般論の通じないプライベートな領域の話だ。 例えば、マツダ・ロードスターがいかにいいクルマでも、4人家族のファミリーカーを購入したいという人には購入候補に入らない。6人家族なので3列シートでないとダメだという人もいるだろう。そういう物理的な制約以外にもいくら素晴らしい軽自動車があったとしても「軽自動車になんか乗れるか」とか「あのメーカーのクルマだけは死んでも乗らない」というメンタルなタブーがある人もいる。「そんな決め付けをしないでもっと自由に色んなものを試してみればいいのに」とは思うが、まあそれは個人の価値観なので尊重することにする。 なので、筆者はそういうニーズや価値観に依存する部分は本人から聞き出し、良いクルマの話は二つの方向に絞ってしまう。一つは走る機械として良いものなのかどうかだ。二つ目はマーケティング上の商品としてどうなのかということだ。
「機械として」と「商品として」
例えば、筆者はトヨタのラインナップで最もお買い得でちゃんとしたクルマはハイエースとプロボックスだと思っている。ウケを狙って言っているのではない。安くて、道具として思った通りにちゃんと走り、多少傷が付こうが古くなろうが値段がしっかり残る。車両価格120万円で買ったプロボックスに5年乗って半値の60万円で売ることは十分可能だと思う。10年乗ってもタダにはならない。動く限りは値段が付くのだ。 プロボックスなら、気がついたら自分のクルマのサイズに合うタイヤがほぼ無くなっていたなんてことも起こらないし、補修部品も安く、調達が簡単だ。不具合についても膨大な数の社有車ユーザーが実証実験をしているので、大抵の問題点は洗い出されて対策済みだ。 筆者は余計なものが何も付いてないクルマも大好きなので正直な話、何度か買いかけた。たまたま別にホントに何も付いてないクルマを持っていたので買うまでには至らなかっただけだ。 だが、普通にクルマが欲しい人に、ハイエースやプロボックスを勧めても仕方がない。個人が所有する耐久消費財としてはあまりにも商品性がなさ過ぎる。そこはその人がクルマに求めるイメージを汲んであげないと話にならない。マーケティング上の商品という軸はそこを調整する為のものだ。